第五章①:真夜中の雨と少女

1. 深夜の窓に差す赤い影

四つ目の不思議“終わらない階段”を乗り越えたソレナトリオ(レオ、ナオキ、ソウタ)は、次なる冒険に向けた休息もそこそこに、鏡の世界の校舎を巡っていた。夜の音楽室や図書室ほど明確な手がかりがないまま、どこへ向かえば次の謎に辿り着けるかを模索している状態だ。
そんな折、三人が校舎の廊下を歩いていると、窓ガラスを打ちつける雨音が響き始めた。鏡の世界でも“雨”は存在するのか、外にはうっすらと雨粒が落ちているらしく、薄暗い校庭が水煙に包まれている。

「雨……夜に降ると、めっちゃ不気味だな」
レオが疲れた声で言うと、ナオキは窓越しに外を見つめ、「ずいぶん降ってるみたいだ」と眉をひそめる。ソウタは背中を丸めながら「こんな世界で雨宿りとか……あり得るのかな」とつぶやいた。
そのとき、不意にガラス越しに赤い影が映り込むのが見えた。まるで傘のような形がちらりと視界を横切る。三人はぎょっとして足を止め、窓ガラスに張りつくようにして外を見たが、影はすでに消えていた。


2. 赤い傘の噂

「今の……赤い傘を持った何かが通った?」
ソウタが声を震わせて言うと、レオは「赤い傘って……ああ、確か“真夜中の雨に現れる赤い傘の少女”って噂があったよな」と思い出す。ナオキも慌てて記憶を手繰り寄せる。
そう、第五の七不思議として囁かれていた話――**“雨の日の夜中、校庭に赤い傘を差した少女が現れる”**という怪談だ。鏡の世界と雨の夜が重なれば、その噂が具現化しても不思議ではない。
「これが第五の不思議か……雨と少女、どういう関係なんだろう」
ナオキが考え込む一方、レオは「追いかけてみるか?」と窓を開けようとするが、ソウタが「ちょっと待って、雨の中に行くのは怖いよ……」と制止する。結局、三人は廊下の窓から懸命に外を探ることにしたが、赤い影は見当たらない。


3. 雨の日に起きる不思議

しばらく校舎内をうろついても赤い傘の少女らしき存在は捕捉できず、三人は明かりの少ない昇降口に移動することにする。雨音が思いのほか大きく、校舎の軋む音と混ざり合って、不気味さを増幅させていた。
「雨だと視界が悪いし、鏡の世界だからって天気がめちゃくちゃじゃないか?」
レオが小声で文句を言うが、ナオキは「でも、今がチャンスかもしれない。噂に出てくる赤い傘の少女は“雨の夜”にしか現れないって話だから……」と冷静に言う。ソウタは震えながらも同意し、「少女がどこに行くのか、確かめないと」と声を落とす。


4. 昇降口から見えた赤い影

昇降口の扉は鍵がかかっていたが、鏡の世界の扉は錆びついているのか、少し力を入れただけでギギッと嫌な音を立てて開いた。冷たい空気が吹き込んできて、三人は一瞬身を竦める。
「うわ、すごい雨……」
ソウタが顔をしかめる中、レオは外へ一歩踏み出そうか迷う。そこへ、ふと左手の校庭の端に、赤い傘がちらりと見えたような気がした。再び姿を消すが、確かに鮮烈な赤色が雨の闇を切り裂いた。
「いた……あっちだ!」
レオが駆け出そうとしたとき、ナオキが腕を掴んで「少し待て」と引き止める。勢いで外へ飛び出すのは危険すぎるし、少女が逃げてしまうかもしれない。三人は冷静さを保つため一旦戸口の陰に身を潜め、外の様子をうかがうことにした。


5. 哀しげに佇む少女?

じっと見ていると、雨に打たれる校庭の端で、確かに赤い傘を差した小さな人影が立ち止まっている。顔ははっきりと見えないが、髪の長さからして少女のように思える。傘の下でうつむいているのか、動こうとしないのがかえって不安を煽る。
「何をしてるんだろう……ずっと雨の中にいるし」
ソウタの声は悲しげな調子だ。レオも「すぐに駆け寄って大丈夫かな……」と躊躇している。そんな中、ナオキがわずかに視線を鋭くし、「傘に穴が開いてるみたいだ」と気づく。雨がその部分から滴って、少女の肩を濡らしているように見えるのだ。
「困ってるなら……助けてあげたいよね」
ソウタの優しい言葉が、三人を突き動かす。もし彼女が“赤い傘の少女”と呼ばれる存在だとしたら、そこには必ず謎があるはずだ。七不思議を解明するにも、対話が必要かもしれない。


6. 一歩踏み出すソレナトリオ

「行くか……」
レオが決心した声を上げ、ナオキも頷く。ソウタは恐怖で足がすくむが、それ以上に放っておけない気持ちが強かった。いつもの合言葉「それな!」を小さく重ね、三人は昇降口を出て雨の闇へ歩みを進める。
雨の音が大きく、傘も持たない三人はすぐに濡れてしまうが、少女の姿を見失わないように注意しながら近づく。果たして、彼女は不思議な“赤い傘の少女”そのものなのか、あるいは別の存在なのか──いずれにせよ、この出会いが第五の不思議を解決へ導く最初の一歩であると、三人は感じていた。

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