【第9話】ステップ・バイ・ステージ!~私がダンスサークルのリーダーになるなんて!?~

第9話「合宿2日目の波乱と、夜のミニ発表会」

1. 合宿2日目の朝、まさかの寝坊?

 「……ヤバい、集合時間に間に合わない!」
 合宿2日目の朝6時。私は宿泊部屋の布団を勢いよく跳ね飛ばして飛び起きた。スマホのアラームをセットしたはずが、どうやら寝不足続きで気づかず止めてしまったらしい。
 急いで廊下に飛び出すと、すでに何人かは起きていて、ストレッチを始めたり、宿舎周辺を軽くジョギングしていたりする。中には初心者組の**佐々木 拓也(ささき たくや)中村 咲(なかむら さき)**の姿もあって、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 昨日の夜、真琴と外で話し込んだ後にスケジュール調整やメモまとめをしていたら、つい夜更かししてしまったのだ。リーダーとしてみんなをまとめるはずが、自分が寝坊とは……。
「小春、起きたんだ? おはよー!」
 談話スペースから顔を出したのは、鈴木 真由(すずき まゆ)。彼女は既にメイクもばっちりで、持参の軽い朝食をつまんでいる。
「……お、おはよう。私、寝坊しちゃって……」
「大丈夫大丈夫。まだ練習開始には時間あるし。アタシもすぐに動けるわけじゃないしねー」
 真由はあっけらかんとした表情で笑う。どうやら朝からテンションが落ちないタイプらしい。

 ホッとしながら、私は急いで顔を洗いに洗面所へ向かう。今日は二段階練習を実施する予定なので、スケジュール通りに進めないと真琴やシズクも戸惑うはず。ここから気合いを入れ直さねば……!


2. 午前の全体練習、体育館は貸し切り…のはずが

 朝食を済ませて9時前。合宿所の体育館にサークルメンバーが集まる。まずは全体練習として、メドレーの流れを通しで確認するのが今日の目標だ。
 私がリーダーとして前に立ち、「じゃあまず、ウォーミングアップからいきましょう!」と声をかける。全員で軽いストレッチやリズムトレーニングをこなし、徐々に体を温めていく。

 すると、昨日話を聞いた職員さんが体育館に顔を出した。「おはようございます。今日、午後からバンド練習の団体が入るそうで、機材搬入があるんです。邪魔にならないよう気をつけてくださいね」と告げられ、私たちは一瞬顔を見合わせる。
「午前は貸し切りで使えるはずだよね? でも搬入って、体育館に機材を置くのかな……?」
「そうみたい。まぁ、練習スペースは確保できるはずだけど、もしかしたら少し場所を譲るかも」
 真琴が少し不安そうに肩をすくめる。合宿2日目で仕上げたい部分が多いのに、午後はスペースが狭まる可能性がある。
「でもまあ、今は午前中だし、時間がもったいないから早速やろう!」
 私が促すと、みんな「そうだね!」と気合を入れ直し、音楽をかけてフォーメーションの確認を始める。

 ロックパートからクールパート、K-POPパートへと移り、ディスコパートで締めるメドレー構成。昨日よりも動きがスムーズになってきた部分もあるが、初心者組はまだタイミングを掴みきれずに戸惑っている様子。真琴やシズクは修正点をその都度指示するが、全員で息を合わせるのは至難の業だ。
 それでも、みんなで声を掛け合いながら、休憩と練習を繰り返していくうちに、少しずつ要領を得てきたのか、初心者組も必死に食らいついてくれている。
「よし、この調子なら午前中に大まかな流れは固められる……かも?」
 私の胸に、わずかだが希望が芽生え始めた。


3. 午後の“二段階練習”、再び衝突?

 昼食後、合宿2日目の最大の目玉である「二段階練習」を始めることになった。
 - 午前中:全体で合わせ。
 - 午後の前半:初心者組は基礎や振り付けの反復。経験者組は演出・フォーメーションの詳細詰め。
 - 夕方:再び全体で集まり、午後の成果を合わせる。

 これが私の考えた作戦だ。初心者組は真由シズクを中心に、多目的室へ移動してカウント取りやステップの練習を集中的に行う。一方、真琴ら経験者は体育館に残り、アクロバットや立ち位置の微調整、照明イメージの確認などを進める。

 ところが、午後の開始直後、体育館内が慌ただしくなった。バンド練習をしに来た団体が機材を搬入し始め、大きなスピーカーやドラムセットがどんどん運び込まれていくのだ。
「うわっ、でかい……」
「体育館の半分くらいが機材で埋まってるんじゃない?」
 真琴や翔が唖然としていると、バンド団体のリーダーらしき男性が「本当にすみません、スペースお借りしますね」と頭を下げてくれたが、これでは思うように踊れない。

 「どうする? 別の場所に移るか?」
 私が経験者組に問いかけると、真琴は「でも多目的室は初心者組が使ってるし、スタジオはもういっぱいだし……」と肩を落とす。翔も「仕方ない、今日は場所狭いけどなんとかやるしかないか」と妥協の様子。

 結局、体育館の半分ほどに追いやられた形で、経験者組の練習がスタート。狭い範囲でアクロバットを試そうとした翔が何度もマットに転がって、周りが冷や汗をかく。真琴は「ちょっと、危ないって!」と声を荒げ、翔が「仕方ないだろ、ここしかスペースねーんだよ!」と応酬。ピリピリムードが漂い始める。
「こ、こういう時こそ落ち着いて……」
 私が声をかけようとした瞬間、バンドが音出しテストを始めたのか、ドラムの大きなビートが鳴り響き、会話すらままならない騒音状態に。

 結局、アクロバットの練習は断念し、細かい振りの確認に切り替えることに。でも、真琴は気合が空回りして落ち着かない様子だし、翔もどうにもやり場のない苛立ちを抱えているように見える。
「この合宿で一気に完成度を上げるはずだったのに……」という焦りが、チーム全体を覆い始めていた。


4. 一方その頃、多目的室では…

 初心者組は多目的室で、真由とシズクがつきっきりでステップやフォーメーションの基本を指導していた。スペースはそこそこ広いが、空調設備が古く、熱気がこもりやすいのが難点らしい。
「うぅ……暑い……」
「でも、あと一回だけサビの通しやってみよう!」
 真由の掛け声に、初心者組のメンバーが汗だくになりながら踏ん張る姿が目に浮かぶ。

 そこに、私が顔を出して様子を見ると、思った以上に全員が真剣な表情だった。特に中村 咲佐々木 拓也は、かなり動きが良くなっているように感じる。
「わあ、みんなすごいじゃん!」
 私が思わず拍手すると、咲ちゃんと拓也くんが「まだまだですよ……」と苦笑しながらも、少し照れ臭そうに微笑んでくれた。
「シズク先輩のカウントがすごくわかりやすくて助かります。あと、真由先輩は盛り上げ上手で……なんとかやれてます」
「そっかそっか、よかった!」

 私はちょっと感激しながら、みんなの動きを見守る。初心者組だって、この合宿を有効に使って少しでも上達しようと頑張っている。その成果は確実に出ているはずだ。
「じゃあ、夕方の全体合わせで、その成果をみんなに見せてやろうよ!」
 そう言うと、みんなの表情がパッと明るくなった。


5. 夕方、ようやく集結するも…

 午後4時過ぎ。初心者組と経験者組が再び体育館に集まった。ちょうどバンド団体が少し休憩に入ったようで、今なら音を流して踊れそうだ。
 私は「じゃあ、二段階練習の成果を合わせてみよう!」と声を張り上げるものの、周囲ではバンド機材が散らばっていて落ち着かない状況。経験者組もイライラが残っているのか、あまり笑顔がない。
「とりあえず音、かけてみるよ?」
 翔がノートパソコンをセットし、メドレーの音源を再生する。みんなフォーメーションにつき、踊り出す――が、なんだか全体のまとまりが悪い。

 前半、ロックパートでは真琴の声が小さく、いつもの勢いがない。クールパートではシズクが一瞬ミスをしそうになるなど、珍しく集中力を欠いている感じ。初心者組も、昼間の練習成果が出しきれないのか、少しテンポが遅れている。
「んー……なんか噛み合ってない?」
 真由が曲を止め、息を切らしながら首を傾げる。翔は頬をかき、「空気悪いな……」とポツリ。

 そこで真琴がぽつりと言う。「なんか、さっきから集中できない。バンドの音が気になったり、場所が狭かったり……。もっとがっつり踊りたいのに、全然噛み合わない!」
「ごめん……アタシもさっき、初心者組と詰めてた振りが上手く噛み合わなくて、イライラしちゃってるかも」
 シズクが言葉を濁し、初心者組も「すみません……」と申し訳なさそうにうつむく。

 せっかく二段階練習でレベルアップを図ったのに、この夕方の合わせが上手くいかないと、メンバー全体のモチベーションが落ちてしまう。ここはリーダーである私が、何かうまい手を打たないと。


6. 小春のアイデア:夜の“ミニ発表会”開催

 私は、みんなが息をのんでいる中、思いきって声を上げる。
「ねえ、今から練習しても、バンドさんとの兼ね合いでストレス溜まりそうだし、一旦切り上げて、夜にミニ発表会をやらない?」
「ミニ発表会……?」
 メンバーたちがきょとんとする。私は続けて説明した。
「せっかく合宿に来てるんだし、今まで頑張って仕上げてきたところを、お互いに“発表”みたいな形で見せ合うのはどうかな。初心者組も午後に練習して成果が出てるし、経験者組も場所の問題で上手く動けなかったから、夜の時間にちゃんと披露してみるとか」
 たとえばロックパートだけ先に見せて、他のメンバーがフィードバックする。クールパートも同じように発表する。そうやってパートごとの仕上がりを全員で確認する場を作れば、ギスギスした雰囲気を解消できるかもしれない――そんな発想だ。

 翔が「なるほどね。確かに“お披露目の場”があれば、みんな気合い入るし、夜ならバンドさんの音も止まってるかもな」と頷く。真琴は「いいかも! そしたらアタシも一度ちゃんと踊れるし!」と瞳を輝かせ、初心者組も「やってみたい……!」と小声でざわついている。

 問題は場所だけど、夜は体育館が使えない時間帯もあるし、多目的室は狭い。すると、ちょうど近くにいた施設職員さんが「夜9時以降は屋内の使用制限がありますが、談話ホールなら少し空けられますよ」と提案してくれた。
「談話ホールか……そこってそんなに広くないけど、パートごとの発表くらいならできるんじゃない?」
 私の言葉に、真由やシズクが頷き、メンバーのテンションが一気に上がる。

 こうして急遽、今夜のミニ発表会が開催決定。合宿2日目、夜は一度部屋で軽く休憩した後、談話ホールに集合して「パートお披露目&フィードバック」タイムを行うことになった。


7. 夜のミニ発表会、ドタバタの開始

 夜8時半。合宿所の談話ホールはサークルメンバーで埋め尽くされた。皆、期待と緊張が入り混じった表情をしている。
 談話ホールの照明はそこまで本格的ではないけれど、なんとか音源を流せるスピーカーや簡易的なマイクが設置されている。床は決して広くないが、パート単位で踊るには十分かもしれない。

 「じゃあ、最初はロックパートからいこうか?」
 私が司会進行役として声をかけると、**佐藤 真琴(さとう まこと)**が「任せとけ!」と手を挙げる。ここぞとばかりに気合が入り、初心者組からも何人かが「一緒に踊ります!」と加わり、曲がスタート。

 スペースこそ狭いものの、真琴のダイナミックな動きやジャンプ、勢いのあるパフォーマンスに自然と拍手が沸き起こる。先日の合宿初日に見られたミスやバタバタ感はかなり減っていて、初心者組も慣れないロック調の動きにしっかりついてきている。
「やっぱり真琴ってすごい……!」
「みんな息が合ってきたんじゃない?」
 見ているメンバー同士でささやき合い、最後のキメポーズで大きな拍手が起きる。真琴は「ふふん!」と鼻を鳴らしながらも、嬉しそうに笑顔を見せる。その後、一人ひとりからアドバイスや感想が飛び交い、ロックパートの完成度がさらに上がりそうだ。


8. クール・K-POP・ディスコ…全パートの熱気

 続いてクールパート。ここは宮田 シズク(みやた しずく)がメインで振り付けしただけあって、音のカウントが一拍一拍ビシッと決まっている。初心者組も「カウントが明確だから覚えやすい」と言っていた通り、動きにメリハリがあって見栄えがする。
 踊り終わると、場内は静寂に包まれた後に「おおー……!」と感嘆の声が沸く。華やかさはあまりないが、洗練された“クール”な魅力が伝わるパフォーマンスだ。真琴も「すげー、カッコいい……」と素直に驚嘆している。

 K-POPパートは鈴木 真由が考えた可愛い&華やかな振り付け。テンポよくステップを踏みながら手先をかわいく使うのが特徴で、初心者組の女子たちが特に映えている。途中で真由が流行りのアイドル風キメ顔を見せて「キラーン☆」とウインクする演出が入り、場が一気に盛り上がる。男子メンバーから「うおー!」と何とも言えない歓声が飛んだのは言うまでもない。

 そして最後はディスコパート。大谷 翔を中心に、ゆるめのフリの中にアクロバティックな動きが組み込まれていて、笑いと驚きが同時に起こる。“ディスコあるある”の肩や腰の振り方をデフォルメしていて、真琴たちも思わず爆笑しながら合いの手を入れている。これまで場所が狭くて練習しづらかったが、なんとか見せ場は作れているようだ。

 こうして全パートが順番にダンスを披露し、みんなでフィードバックを交わす“ミニ発表会”。ときには「ここでもうちょっと動きを揃えよう」など真面目な話もするけれど、基本は大盛り上がり。あれだけ白けていた空気が嘘のように活気に満ちている。
「みんな、なんだかんだで楽しんでるんだな……!」
 私は胸が熱くなりながら、司会進行役として拍手と合いの手を送り続ける。合宿2日目、ようやく“仲間と踊る楽しさ”が戻ってきた気がする。


9. 小春自身の見せ場…?

 全パートが出揃った後、メンバーから「そういえば、小春は今日まだ踊ってなくない?」「リーダーとして何かやってみたら?」という声が飛ぶ。
「え、わ、私? いや、私はみんなの演出サポートしてただけで……」
 戸惑う私に、真琴やシズクが「せっかくだから、小春の演出プランとか、つなぎの部分を踊って見せればいいじゃん!」と提案してくる。実際、メドレーの中間部分の“場面転換”で私が考えたアイデアはまだ形になりきっておらず、イメージだけ伝えてあった状態だ。

 「……じゃあ、ちょっとやってみる!」
 私は思い切って談話ホールの中央に立ち、メドレーの曲の中で転換部分だけ数十秒流してもらう。照明や大掛かりな動きはないが、**フォーメーションが変わる瞬間を演出する“手上げ”や“ターン”**など、自分なりに考えた振りをサラッと踊ってみせる。
 踊り終わると「おおー、いいじゃんいいじゃん!」「確かに曲が変わる前後で、センターに立って合図するの面白い!」と拍手が起こる。

 何より嬉しかったのは、みんなが口々に「小春も踊れるんだね!」と言ってくれたことだ。そりゃ、私もダンスサークルに所属してるんだから当たり前だけど、ずっとリーダー業に専念していたからか、“まとめ役”のイメージしかなかったらしい。
「これで、つなぎ部分に明確な振り付けができれば、全体の流れが締まるかもね」
「いい感じだよ、小春!」
 真琴とシズクが揃って親指を立て、翔や真由も笑顔で拍手。私は頬を赤らめながらも、「やっぱり踊るのって楽しい」と改めて実感する。


10. 夜は更けて…さらなる結束へ

 ミニ発表会が終わった後、みんなで大きく円陣を組み、「明日もがんばろう!」と声を合わせる。拍手と笑顔、そして汗の匂いが入り混じったこの瞬間は、まさに合宿ならではの熱気に包まれていた。
 初心者組の咲ちゃんは「私、今日あんなに踊れたなんて自分でもびっくりです……」と感動し、拓也くんも「これなら本番までにもっと上達できるかも!」と意気込む。真琴は「明日こそ、アクロバットも完璧に決めるぞ!」と闘志を燃やし、シズクは「カウント合わせるところをもう一度整理しよう」とクールにメモを取る。真由は「衣装イメージもさらに広がった!」と目を輝かせ、翔は「こりゃ夜更かしするしかねぇな!」と変にハイテンションだ。

 私はリーダーとして、みんなが笑顔になっていることに大きな安堵を覚える。合宿2日目の夕方は不協和音が漂ったけれど、このミニ発表会をきっかけにチーム全体が再び一丸となった気がする。
「よーし、明日は合宿最終日。最後まで頑張ろう!」
 私自身も疲れはあるけれど、やる気がみなぎってくるのを感じる。みんなが繋がっていれば、きっと大丈夫――そう思いながら、談話ホールの床を少しずつ片付ける。


エピローグ

 夜が更ける頃には、各自が部屋に戻ってシャワーや就寝準備をしているが、初心者組は部屋で小さな自主練をし、真琴やシズクもプランを練っているらしい。最終日の朝には、もう一度全体で仕上げの練習をする予定だ。
 ステップ・バイ・ステージ――その言葉どおり、一歩ずつ、私たちは文化祭ステージに向けて前進し続けている。その足取りは確実に力強くなっているのだ。

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