【第1話】ステップ・バイ・ステージ!~私がダンスサークルのリーダーになるなんて!?~

第1話「運命のリーダー指名!?」

ここは都内にある私立・月見坂大学。

広大なキャンパスと割と自由な校風が売りで、地方からもたくさんの学生が集まる。

私はその大学の二年生、桜井 小春(さくらい こはる)

 今日は火曜日。2限目の講義を終えて、大急ぎで学生会館へ向かっていた。

理由はもちろん、ダンスサークルの定例練習に参加するため――だったのだけど。

「えっ、なんで私がリーダーなんですかーーっ!」

 学生会館の一室。私の悲鳴に近い声が、薄暗いミーティングルームに響き渡った。

 そこにはサークルメンバー十数名が集まっていて、全員が私を囲むように座っている。

その中心に鎮座しているのが、サークル代表で三年生の青山 リカ先輩だ。

茶髪をポニーテールにまとめ、どこか大人っぽい雰囲気。

いつもニコニコしていて、面倒見のいい先輩としてサークル内でも一目置かれている。

「いやー、小春ちゃん、今度の文化祭ステージ、リーダーやってくれないかなって。私、就活が忙しくなるし、下の代がステージを仕切って成長するのもいいかなーと思って」

「でも、私……そんな大役できる自信ないです!」

「自信なんて、やってるうちにつくんだよー。小春、いつもみんなに気遣いしてくれるし、練習にもちゃんと来てるしね。それにダンスも上手いじゃん」

「い、いや……そんな……」

 ダンスが上手いって言われると照れる。正直、まだまだ先輩たちに比べたら拙いと思うし。 周りを見ると、二年生の仲間たちがやたらと頷いている。

「小春なら大丈夫だってー。優しいし、まとめ役もできるよ」

 そう声をかけてきたのは、同じ二年の大谷 翔(おおたに しょう)。短髪にちょっとスポーツマンっぽい風貌だけど、中身はどちらかというとお調子者。いつもヘラヘラしている印象があるけど、コミュ力だけは抜群だ。

「そうそう、これを機にリーダーとして花開いちゃいなよ」

 笑いながらヒョイと肩を叩かれる。私がしどろもどろしていると、別の声がかぶさってきた。

「まぁ、アタシも小春がリーダーならやりやすいかも。だってほら、張り切りすぎて周りが見えないってタイプじゃないし」

 言いながら頭をボリボリかいているのは、二年の佐藤 真琴(さとう まこと)。身長高めでスポーツ全般得意、さらにダンスもパワフルなのが持ち味。いつもテンションが高く、盛り上がると声量が人の数倍になる。

「いや、真琴が言うと微妙に説得力があるような、ないような……」

 真琴をチラ見しながら言うと、当の本人は「なんだよそれ!」と笑い混じりにツッコんできた。

 やれやれ。確かに、リカ先輩の就活を手伝うためにも下の代でステージを引っ張る人が必要なのはわかる。でも、その役を私がやるっていうのは話が早すぎないだろうか?

「でも……リーダーって、具体的に何やればいいんですか?」

 消極的に質問すると、リカ先輩が「うーん」と少し首を傾げてから、明るく答えた。

「簡単に言えば、ステージの方針を決めたり、メンバーの意見まとめたり、あとは公演内容の最終チェックもお願いね。ま、わからないことがあったら随時聞いてよ。私も空いてる時間は協力するし」

「は、はぁ……」

 正直、かなり荷が重い。でも、このサークルの一員として、それにダンスが大好きな人間として、文化祭のステージは大切なイベントだ。私自身、観客の前で踊るのは大好きだし……

(……やるしかない、のかな……)

 息をのんで周りを見回すと、みんな期待の眼差しでこちらを見ている。ああ、背中を押すというか、むしろ完全に逃げ場がない。どうやら断るという選択肢はなさそうだ。

「わかりました……や、やります。引き受けます」

 そう言った瞬間、部屋は大歓声に包まれた。

「おおーっ! 小春、よろしくぅ!」
「よっ、リーダー!」
「みんなで最高のステージ作ろうぜ!」

 なんだかいきなりリーダーだなんて。私は拍手と歓声の渦に囲まれながら、内心では「大丈夫かなぁ……」という不安を隠せなかった。でも、やるしかないのだ。そうやって半ば流される形で、私の“リーダー生活”が始まった。

文化祭ステージ出演の大決定

翌日、改めてサークル全体のLINEで「今年の文化祭でダンスステージに正式出演決定!」との連絡が流れた。

 サークルは一応“ダンス同好会”という形だが、人数が多いため実質“部”に近い活動をしている。ジャンルはストリートダンス中心だけど、ジャズやヒップホップ、K-POPコピーなど、メンバーによって得意分野は様々。

 そして今年は、大学の文化祭で体育館ステージに立つことになったのだ。そこそこ大きな舞台で、観客も多い。思っただけでドキドキする。

 リカ先輩や他の三年生は就活モードに入りつつあって、実際の指導や運営は二年生が中心になる。つまり、ステージの要は私たち。……そしてリーダーは私。大丈夫か、本当に。

初めてのリーダー会議

練習日。私は昼休みを使って少し早めに学生会館のサークル室へ向かった。

今日の午後は、みんなで「文化祭に向けた最初のミーティング」をやる予定。どうやって進めればいいんだろう……頭の中は疑問符だらけだ。

「はぁ……」

 サークル室の扉を開ける前に、思わずため息がもれた。

「おっ、早いね小春」

 中に入ると、リカ先輩が一人でパソコンを開いていた。

「はい……ちょっと色々と考えたくて……」

「真面目だね。まぁ最初のうちは何していいかわからないよね。気楽にいこう?」

 リカ先輩にそう言われ、少し気が楽になる。「そ、そうですね……がんばります」と返して部屋の奥へ荷物を置いた。

 程なくしてメンバーがぞろぞろと集まり始める。真琴はもちろん、大谷 翔、クール系の宮田 シズク(みやた しずく)、振り付け好きの**鈴木 真由(すずき まゆ)**など、二年生を中心に続々と顔がそろう。

 総勢10人ほどになったところで、私は意を決して「じゃあ、始めようか!」と声を上げた。
 みんなから「はいはい」と返事が返ってきたものの、いざ会議を始めてみると――。

「ダンスのコンセプトはどうするの?」「曲はもう決まってる?」「衣装とか衣装とか、ねぇ、可愛いのがいいよ!」

 一瞬でカオスである。みんな勝手に意見を言いまくり、私の手元のメモに収集がつかないほどの書き込みが殺到する。隣では真琴が「いや、つべこべ言わずに踊りゃいいだろ!」と声を張り上げ、シズクが「そうやって適当にやると必ず破綻するから」と冷静に応酬。さらに真由は「いっそミュージカル風に衣装もシーンごとに変えたい!」と言い出し、翔が「おれはアクロバットで場を沸かせたい!」とふざけ半分に乗っかる。

 私はもはや交通整理できずにオロオロ。ちらりとリカ先輩の方を見ると、彼女はニコニコしたまま黙っている。おそらく「これもリーダーの試練だよ。自分でやってごらん」という無言のメッセージなんだろう。

 結局、今日は「みんなの意見を一旦全部聞いて、次回また話し合おう」という曖昧な形で終わることに。私が会議のまとめを必死にノートに書き留める横で、真琴とシズクが「いや、ダンスはこうあるべきだ」と終わりのない議論を続けている。真由は真由で「絶対この可愛い衣装がいいよー」と雑誌を広げて盛り上がっている。翔はたまに「あーあ、腹減った」と呟くだけ。みんなマイペースすぎる。

 私はまったく収穫のない会議にヘトヘトになりながら、最後の挨拶をする。
「じゃ、じゃあ……とりあえず次回、改めて曲決めとか練習方針とかをしっかり決めましょう……」
 言葉尻が頼りない。周りも「オッケー」「了解ー」と軽い返事のみ。さすがドタバタがウリのサークルだなぁ、と他人事のように思うしかない。

 会議後、リカ先輩がそっと私の肩を叩いた。
「最初の会議はあんなもんだよ。みんな主張が強いからね。むしろ、意見がいっぱい出るのはいいことだよ」
「そう……なんですかね……。私には無理かもです……」
「何言ってるの。小春、すごくがんばってたよ。今はどんな意見があるかを知るのが大事なんだ。次はきっと、もう少し整理して話せるようになるよ」
 そう言われて、少しだけ救われた気持ちになった。

不安と期待の夜

 その日の夜、私は自宅の自室にてパソコンの画面を見つめていた。「リーダーシップ 会議 進め方」と検索し、出てきた情報をかじり読みする。

 組織論? ファシリテーション? なんだか社会人が読むビジネス書みたいでピンとこない。でも、私が今やろうとしているのはそういうことなのかもしれない。

「……私がちゃんとまとめないと、ステージはめちゃくちゃになる」

 考えるほどに不安は増すけれど、不思議と少しわくわくしている自分にも気づく。ダンスを通じてみんなが一つになる瞬間は、何度経験しても胸が高鳴るからだ。

 きっと文化祭当日は大勢の観客の前で、大きなステージで踊るんだろう。そう想像すると、やっぱりやりたいと思えてくる。逃げ腰の気持ちと、挑戦したい気持ちが交互に押し寄せ、頭の中はごちゃ混ぜ。

 翌朝、私はリカ先輩が言ってくれた言葉を思い出しながら、早起きしてノートに“次の会議で話すことリスト”をまとめた。曲のジャンル、練習メニュー、衣装案、メンバー分担……書いていくうちに、本当にリーダーっぽい気がしてくる。ほんの少しだけど、自信が湧いてきた。

エピローグ

 こうして私のリーダーとしての第一歩は、ドタバタの会議と先輩の励まし、そして仲間たちの無秩序な(?)応援から始まった。

「リーダーなんて、私にできるのかな……?」という不安は消えない。でも一方で、「やるからには楽しくやり遂げたい」という心の声も大きくなっている。

 まだ具体的な道筋は見えないけれど、文化祭ステージに向けて、私たちの冒険は今、確実に動き出したのだ――。

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