1. 見つからない「コア」
鏡の世界での理科室探索を続けるソレナトリオ――レオ、ナオキ、ソウタの三人は、“コア”と呼ばれる動力源さえあれば人体模型を動かせるかもしれない、という仮説にたどり着いた。しかし、理科準備室や薬品庫を隅々まで探しても、それらしき物体は見つからない。
「仕方ない。いったん他の場所も探そう」
ナオキがため息まじりに言うと、レオは扉の前で立ち止まり、小さく舌打ちする。ソウタは疲れた表情を浮かべながらも「それしかないよね……」と同意するしかなかった。
三人は重苦しい気分を抱え、人体模型の前を通り過ぎて廊下に出る。背後にある模型の“視線”を感じて仕方ないが、いまは動き出す気配がない。いっそ堂々と動いてくれたら、仕組みがわかるのかもしれない――そう考えると、むしろ歯がゆい気持ちすら湧いてくる。
2. 謎のメモと“勇気”を示す言葉
廊下を戻ろうとすると、扉の下から紙切れがはみ出していることに気づいた。ソウタが拾い上げ、ナオキが懐中電灯を照らして反転文字を解読しようとする。どうやら実験記録の続きらしいが、途中で意味不明な単語が並んでいる。
「『モデルを動かすには心臓……だけじゃなく、“アクティブ・キー”が必要』……とか書いてあるな。あと、『術者の意志』?」「何これ……オカルトじゃないか」
ナオキは眉間にしわを寄せながらも、好奇心を抑えきれない様子だ。レオはピンときたように「要は、“動かそう”っていう強い意志が必要なんだろ?」と割り切り、ソウタは「そんなの怖いよ……」と顔を曇らせる。
しかし、メモの最後にはこう書かれている――「術者が『勇気』を示さねば、模型は起動せず」。彼らは思わず顔を見合わせる。勇気という曖昧なものが、ここでどう関係しているのか。ナオキは理屈で割り切れないテーマを突きつけられ、複雑な表情を浮かべた。
3. ナオキの葛藤
「勇気って……理屈じゃ測れないからな」
ナオキは独り言のように呟き、扉の前で立ち止まった。いつもは論理的な思考で問題を整理するタイプだが、この鏡の世界に来てから、常識が通用しないことばかりに直面してきた。
「科学的な仕組みだけじゃ、ダメなのか……」
レオはナオキの背中を軽く叩き、「お前なら大丈夫だろ。いつも何だかんだで解決してきたじゃん」と笑ってみせる。ソウタは「それな……」と力なくうなずく。
だが、ナオキの心の中には強い不安が渦巻いていた。もし“勇気”という精神的な要素が本当に動力に関わっているなら、自分の得意分野である理詰めが通用しないかもしれない――それがナオキを怖がらせていた。
4. 模型を動かそうとするレオ
一度廊下へ出た三人だが、レオは何かを決心したように急に引き返す。ナオキとソウタが驚いて呼び止めるが、レオは「いつまでもうだうだ考えてても仕方ない」と言い放ち、再び理科室の扉を開ける。
モデルを動かすためのコアは見つからないし、実験記録には“勇気”が必要と書いてある。ならば、一度試してみるしかない――そうレオは考えたのだ。
「レオ、まさか……本気で動かそうとしてるのか?」
ナオキが呆れと恐怖を混ぜた声を出す。レオは模型に向かい合い、深呼吸をして宣言した。
「やってみないとわからないだろ? 俺たちはここで“見てるだけ”ってわけにはいかないんだ」
ソウタは「怖いよ……」と震えながらも、レオの背中を支える形でそばに立つ。ナオキは理詰めでは納得できなくとも、自分が止めに入る理由も見つからず、渋々懐中電灯を当てて様子を見守る。
5. “動かす”覚悟――そこに必要なもの
埃を被った模型の胸の穴を見つめ、レオはぎこちなく声を出す。
「聞こえてるかわかんないけど……もし動けるなら、一歩だけ歩いてくれないか? 俺たち、“七不思議”を解決しないと帰れないんだ」
ソウタとナオキはそれを見て凍りつきそうな気持ちになる。模型はやはり人形にしか見えないが、鏡の世界で何が起きても不思議ではない。静寂の中、三人は息を凝らして待った。
しばらくしても何の変化もなく、レオは肩を落とす。「やっぱダメか……」と振り返ろうとした瞬間、不意に胸の穴から風が巻き込むような音が聞こえた気がした。ソウタは声を上げようとしたが、うまく息ができない。
ナオキは懐中電灯を構えたまま、思わず叫ぶ。「……レオ、下がれ!」
しかし、レオは踏みとどまった。模型を動かそうとしているのは自分の意思であり、それこそが必要な“勇気”だと信じたからだ。
6. 模型は動かなかった――それでも
結果から言えば、そのとき模型は動かなかった。静寂が戻り、三人の鼓動だけが部屋に響く。崩れ落ちそうになるレオを支えながら、ソウタは「動かないならいいよ……もう、こっちが動揺するだけだし……」と泣きそうな声を出す。
ナオキも困惑しつつ、ほっとしている自分がいると感じていた。もし本当に模型が動き出したら、自分は悲鳴をあげて逃げ出すかもしれない――そんな弱い自分を知ったからだ。
「でも、わかったこともあるよ。やっぱりただの仕掛けじゃ動かないんだ。何かが足りない……」
レオは息を切らしながら言う。ナオキはメガネの奥で目を細め、「それが“Core”なのか、あるいはもっと別の力なのか、まだ判断はできない」と続ける。ソウタは「怖いけど、次の手を考えなきゃね……」と小さく口にした。
こうして、三人は理科室を後にする。第二の不思議、“動き出す人体模型”を解決するには、まだ足りない要素がある――動力源や意志、あるいは別の“想い”かもしれない。ナオキは理屈を超えた何かを感じ始め、恐怖と興味が入り混じる複雑な表情を浮かべていた。
답글 남기기