最終章①:忘れられた生徒の記憶

1. 黒い影と、その先の扉

赤い傘の少女の謎、消えた給食室の復活――七つの不思議をすべて乗り越えたソレナトリオ(レオ、ナオキ、ソウタ)は、鏡の世界の深い闇にうごめく“八つ目”の正体を追うことになった。
給食室の奥に揺らめく黒い影は、不気味なほどに存在感を増し、まるで三人を誘うかのように壁際へ溶け込んでは姿を変えている。まるで、この世界全体を巻き込むかのような重苦しい空気が漂っていた。

「七つ目が解決しても、完全にスッキリってわけじゃなさそうだな」
レオが舌打ちまじりに言うと、ナオキは冷や汗を拭いながら「やっぱり“八つ目”が待ってたんだ」と納得するしかない。ソウタは肩を落としながらも、もう逃げるつもりはないと決意を固める。
そのとき、黒い影がスッと動いて廊下の方へ滑り込むように消えていく。懐中電灯を向けても姿を結び留められず、代わりにそこには古びた扉がぼんやりと浮かび上がっていた。今まで見たことのない扉――そしてその扉の上部には消えかかった名前の痕跡があるように見える。


2. 名前が消された扉

「ここ、前はただの壁だったよな?」
ソウタが半泣き状態で声を上げ、ナオキがメガネを押し上げつつ扉の表面をそっと触れる。朽ちた木製の扉は半透明になっており、一部がなぜか擦れた文字で埋まっている。
「…〇〇〇◯生徒……?」
何かの名前と“生徒”という言葉が組み合わさった痕跡があるが、はっきりとは読めない。レオは懐中電灯を当てるが、文字は闇に溶けるように歪んでおり、意味を断定できない。
「もしかして、ここの扉が“忘れられた生徒”の記憶に関係するのか?」
ナオキは過去に囁かれていた噂を思い出す。“八つ目の不思議”には、かつてこの学校にいた生徒が深く関係している――それは漠然とした情報だったが、ここで確信に変わりつつあった。


3. 忘れられた生徒という存在

「忘れられた生徒って、なんなんだろうね。退学とか転校とか、あるいは……もっと悲しい出来事があったのかな」
ソウタがつぶやくと、レオは「わかんない。けど、今までの不思議も“過去の想い”が具現化してたし、今回も同じかもな」と呟く。ナオキは懐中電灯を持ち替えて扉の取っ手をゆっくり引くが、錆びついたように固くて開かない。
その扉には、鏡の世界特有の冷たさとは別の、重苦しい“拒絶感”のようなものがこもっている気がした。まるで、“ここには触れてほしくない”とでも言わんばかりの圧が三人の胸を圧迫する。


4. 声なき呼びかけと記憶の欠片

そんなとき、三人の耳にわずかな気配が届く。声と呼ぶにはあまりにも弱いが、まるで泣き声の残響のようなものが空間に漂う。それは「誰にも気づかれないまま、忘れ去られた悲しみ」を吐露しているかのように感じられた。
「これ……さっきの黒い影と同じやつか?」
レオが警戒しつつも、何かに引き寄せられるように扉へ近づく。ソウタは思わず肩を抱えて身震いするが、ナオキは思いきって扉に手を当てる。「ここに、何かの記憶が封じられてるんじゃないか……」
微かに手のひらを通じて伝わるのは、孤独と切なさ。そして“気づいてほしい”というメッセージのような感触。ナオキは理屈で割り切れないそれを、もう拒絶せずに素直に受け止めようと決めた。


5. 三人で扉を開くための想い

「忘れられた生徒は、この学校に何を遺したんだろう……?」
ソウタの疑問に、レオは「たぶん、誰にも思い出されずに消えてしまった“想い”があるんだろうな」と低く呟く。ナオキは教訓を思い出すかのように、「七つの不思議も、結局は“誰かの未練”や“想い”を解放することで解決してきた。ここでも同じだと思う」と分析する。
三人は目を見合わせ、いつものように小さく「それな!」と声を揃えた。鏡の世界で最も根深い謎に挑むなら、三人の絆は不可欠だ。扉を前にして浮かび上がる黒い影は、まるでこの先へ進むことを試すように揺れている。


6. 扉の向こうに待ち受けるもの

懐中電灯の光が黒い影をわずかに照らし、黙々と抗うような感触が伝わる。レオが立ち上がり、取っ手を再び強く引いたそのとき、扉がギギッと音を立てながらわずかに開き始める。
「開く……!」
ソウタは思わず声を上げ、ナオキは身構える。そこには薄暗い廊下の延長線なのか、別世界への入り口なのか、まだ分からないが、黒い影がこちらを誘うように揺れていた。忘れられた生徒の記憶――それが何を意味するのか、いまだ不透明だ。
しかし、ソレナトリオは逃げることなく、一歩ずつ踏み込む覚悟を固める。**八つ目の不思議“忘れられた生徒”**こそが鏡の世界の真実と元の世界への扉を握っているに違いない。

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