第三章①:本が消える理由

1. 七不思議、次なる舞台は図書室

夜の音楽室に潜む幽霊の未練を晴らし、理科室の人体模型が動き出す仕組みを解き明かしたソレナトリオ(レオ、ナオキ、ソウタ)の三人。二つの不思議を乗り越え、鏡の世界の謎は少しずつ解かれつつあった。
しかし、七つある不思議のうち、まだ五つが残っている。その一つが「図書室で本が次々と消える」という怪異だ。噂によれば、ある特定の本だけが人知れず消えてしまい、その理由を誰も知らないという。三人は疲労と緊張を抱えながらも、次なる舞台を図書室に定めた。


2. 鏡の世界の図書室へ

鏡の世界の廊下は相変わらず薄暗く、外の光がほとんど差し込まないまま静寂が漂っている。レオたちが図書室と思しき扉に手をかけると、ひんやりとした空気が流れ出し、埃の舞う気配に胸がざわつく。
「ここだよね、図書室……」
ソウタが緊張混じりに呟くと、ナオキは口を引き結んで懐中電灯を握りしめる。レオは一歩足を踏み入れ、ずらりと並ぶ本棚に目をやった。左右反転の文字が背表紙に刻まれているが、どれも埃をかぶり、荒れ果てているように見える。
かすかな明かりが届かない隅には、闇がうずたかく積もっていた。もしここで本が“勝手に消えている”のだとしたら、何が原因なのか。三人は不安を抱えつつ、静かに捜索を始める。


3. 本が消える噂の源

「本が消えるって、どういうことだろう。誰かが持ち出しているのか、それとも幽霊的な何か……?」
ナオキは理性的に分析しようとするが、これまでの経験で“理屈を超えた何か”があることも痛感している。ソウタは「また幽霊が出るのかな……」とおどおどしながら、棚の隙間を覗き込んだ。
レオは過去に図書室を拠点にした“七不思議”の噂を思い出す。曰く、「大切に想われていない本が消える」「物語の登場人物が本の世界から飛び出す」など、様々なバリエーションがあったが、どれも真相は確かめられていないという。


4. 不穏な足跡と散らばる書籍

図書室の奥へ進むと、いくつかの本が床に散乱していた。まるで誰かが選り分けて捨てていったかのように、特定の本だけが棚から抜き取られている形跡がある。ナオキが懐中電灯を当ててタイトルを確認するが、左右反転で読みにくい上、古びた表紙が剥がれかけて何の本か判別が難しい。
「ねえ、この本……ページがぐちゃぐちゃに破られてるよ」
ソウタが手に取った一冊は物語の小説らしく、中身が乱雑に破れており、ページの半分が欠けていた。レオは「誰かがここで暴れたのか……」と眉をひそめるが、鏡の世界ゆえに人の存在を簡単には想定できない。


5. ミステリアスな「書架」の存在

棚をさらにチェックすると、一部だけ異様に空っぽになっている書架が目につく。まるでそこに並んでいた本だけがまとめて消えてしまったかのように、整然とスペースが空いているのだ。ソウタはその空白を見つめて背中をぞっとさせる。
「ここ、こんなに広い隙間があるのに、一冊も残ってない……」
ナオキが棚の縁をなぞると、かすかにタイトルラベルの粘着あとが並んでいる。何十冊もあったはずの本が丸ごと消えたと見える。これはただの紛失や移動とは思えない現象だった。
「やっぱり“何か”が本を持っていってるんだろうな。鏡の世界ってこともあるし」
レオは肩をすくめつつ、「誰かが読むために持ち去ったのか、それとも幽霊の仕業なのか……」と考えを巡らせる。


6. 手がかりのノート――消えた本の理由

三人が捜索を続けるうちに、レオは一冊の薄いノートを発見する。表紙には左右反転でメモ書きらしきタイトルがあり、ナオキが解読した結果、“失われた本たちの記録”という意味らしいことがわかった。
中には、ここ数週間で消えた本のリストが書かれており、そこには“読まれない本”や“忘れられた物語”などの単語が散見される。ソウタは震える声で想像を口にする。
「誰も読んでくれない本だから……本自身が消えちゃうとか……?」
ナオキは「馬鹿な」と言いかけるが、鏡の世界の不思議を通じてきた今、否定はできない。実際に魂を持ったように動く人体模型を見てきたからこそ、本にも何らかの“意志”があるのではと考えるのが自然だ。
「つまり、ここでは“誰にも読まれない本”が勝手に消えてしまうのかも……」
レオはノートを閉じ、まるで本たちが「自分を必要としてくれないなら消える」というメッセージを発しているように感じた。七不思議には“想い”が関わっている――その事実が、またひとつ裏付けられた気がする。

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