第18話「文化祭当日、いざステージへ!迫る本番とドタバタの幕開け」
1. 文化祭当日の朝、落ち着かない空気
ついにやってきた文化祭当日。今朝、私はいつもより早く目を覚ましたはずが、なぜか身支度に手間取り、家を出る時間が普段とあまり変わらなくなってしまった。
「やばい……私が遅刻なんてシャレにならない……!」
電車に乗りながら、心臓の鼓動がやけに速い。今までどんなに頑張って準備してきても、本番当日は別物だと先輩方から聞かされてきた。昨夜の最終練習は順調に終わったとはいえ、本番のステージはまったく別の環境。風や音響トラブルはもちろん、他団体の進行、照明の都合など、何が起こるかわからない。
大学の最寄り駅を降りると、早朝にもかかわらず学生が多く行き交い、校門前では実行委員が「おはようございまーす!」と元気にあいさつ。なんだか今日は普段の大学とは違う緊張と華やかさが混ざり合った雰囲気が漂っている。
私は桜井 小春――ダンスサークルのリーダーとして、今日はメンバーをまとめ上げ、本番の舞台に立つ。頭ではわかっていても、足が震えるような気がしてならない。
2. 楽屋入り、まさかのトラブル発覚?
大学構内を抜け、学園祭のメインステージ近くに設けられた楽屋テントへ向かう。そこに到着すると、すでに大谷 翔(おおたに しょう)や宮田 シズク(みやた しずく)、そして初心者組の数名が集まっていた。
「おはよー、小春。なんとか間に合ったね」
翔が軽く手を挙げて笑うが、その笑顔にはどこか落ち着かない色が混じっている。シズクは「おはよう、もうすぐステージのリハ(サウンドチェック)順がわかるらしいわ」と抑揚のない声で教えてくれた。
慌ただしく荷物を置き、全員が顔をそろえるのを待っていると、先に着替えていた**鈴木 真由(すずき まゆ)**が小走りに近づいてきた。
「や、やばいかも……K-POPパートで使うはずの小物が一部なくなってる!」
その一言に、一瞬楽屋がシーンと静まり返る。確かに昨日まで、真由は小物のリストを徹底管理していたはず。それが当日の朝にいきなり紛失?
「えー、マジ……?」
初心者組の女子たちが目を丸くし、私も頭を抱える。もともと追加注文に苦労していたアイテムだけに、余裕の在庫があるわけでもない。
「とりあえず、もう一度探してみよう。ダンスサークル用の荷物置き場を隅々までチェック!」
私が指示を出すと、みんなが「はい!」と散って行く。ステージ本番前にして、いきなりのドタバタスタートだ……。
3. 真琴の足首とロックパートメンバー
その一方、**佐藤 真琴(さとう まこと)**は足首にサポーターを巻きつつ、笑顔を浮かべて楽屋の椅子に腰を下ろしている。昨日までのハード練習やリハをこなしてきたが、今朝の様子はわりと落ち着いて見える。
「痛みはどう?」
私が尋ねると、真琴は「まあ、多少はあるけど、普通に踊れると思う。もうここまで来たら、アドレナリンで何とかなるでしょ!」と気合い十分な様子。
ロックパートの三人体制(真琴・翔・中村 咲)で臨むことがほぼ確定しており、今更プランB(真琴抜き)を検討する余裕はない。真琴本人が踊りきる覚悟を決めた以上、私も背中を押すしかない。
翔と咲もそわそわと衣装を整えながら、ステージでのフォーメーションを頭の中で再確認しているらしい。
「昨日の最終練習で仕上げたイメージがまだ残ってる。とにかくやるだけだ!」
咲が意外と強気の発言をし、翔は「おお、珍しく頼もしいじゃん」と茶化すように肩を叩く。初心者だった咲がここまで自信を持つようになったのかと思うと、私は感慨深さで胸がいっぱいになる。
4. 紛失した小物はどこに? 意外な場所で発見
小物紛失の一報を受けてから数分後、真由や初心者組がテントの外や荷物置き場を総ざらいで探していた。すると、**佐々木 拓也(ささき たくや)**から「これ、ありました!」という声が。
「ああ、それそれ! K-POPパートのリボンアクセ!」
真由がホッと安堵の表情を浮かべる。そのリボンアクセは、なぜか他サークルの備品と一緒にまとめられていたらしい。多くの団体が同じ楽屋テントを使っているので、紛れ込んだ可能性が高い。
「いやー、良かったね、見つかって……」
私が胸を撫で下ろすと、真由は苦笑しつつ「ほんと、ごめん! ちゃんと袋を分けておくんだった……」と頭を下げる。とりあえず、小物トラブルはひとまず解決だ。
5. 出番順が確定、そしてサウンドチェックは「なし」?
楽屋に戻ると、実行委員が配布した「ステージ出演順リスト」がメンバーの手に渡る。なんと、ダンスサークルの出番は午後2時40分からとのこと。ステージ全体の進行は午前10時から始まるそうだが、私たちは4番目くらいの出番かと思いきや、意外と後ろのほうになっている。
しかも、朝イチで期待していたサウンドチェックの時間はないらしく、ほぼ「本番で音を流してスタート」という一発勝負の形態らしい。
「まじか……」
翔が肩を落とし、「まぁ想定内だけど、実際にそう言われるとキツいな」とぼやく。シズクは「大丈夫、リハーサルで覚悟してたから」と淡々と返すが、内心は不安を抱えているに違いない。
さらには、ステージ裏のスタッフ不足も深刻らしく、咲や初心者組が合間に手伝うと約束していたが、進行が押したらロックパートの準備時間と重なるかもしれない。何とも綱渡りの状況だ。
私も気が気でないが、ここまで来たら腹をくくるしかない。
6. 出演直前まで暇? いや、逆に落ち着かないメンバーたち
ステージの出番は午後2時40分。それまでは楽屋で待機、あるいは学園祭を回っていてもいいということになった。しかし、「リハなしで一発本番」という不安がある以上、そう簡単に遊ぶ気分にもなれない。
真由たち初心者組が「ちょっと模擬店で甘いもの買ってきます!」と出かける一方、翔や咲は楽屋テントでフォーメーションをイメージしたり軽くストレッチしたりしている。真琴は「足を動かしすぎると痛みが出るかもだから、なるべく休める」と言い、椅子に座って目を閉じている。
私自身はリーダーとして「大丈夫、なんとかなりますよ~」とメンバーに声をかけつつも、内心はドキドキが止まらない。気晴らしに外へ出てもいいが、いつ急な連絡が来るかわからないし、結局テント周辺をウロウロするだけだ。
時間がゆっくりと過ぎ、まだ正午にもなっていないのに既に疲れを感じる。心拍数が上がり続けている証拠かもしれない。
7. 先輩リカの励まし、そしてOBの再来?
そんな落ち着かない空気の中、Rica Aoyama先輩が楽屋に現れる。就活で忙しい中でも、文化祭当日はサークルを手伝うと言ってくれていた先輩だ。
「おっ、小春、お疲れー。今日はやること多いけど、私も一緒に動くから、何かあったら呼んでね」
先輩の柔らかい笑顔に、私は少し緊張がほどける。音響トラブルやスタッフ不足など、最後まで何があるかわからないが、リカ先輩がいるなら心強い。
さらに、そこへ昨日ちらりと顔を出したOB――坂口さんもふらりとやって来た。彼は「やあ、昨日は練習も見せてもらえてありがとう。今日は本番観に来たけど、差し入れもってきたよ!」と気さくな笑みを浮かべ、飲み物やお菓子を差し出してくれる。
真琴は足首をかばいながらも「ありがたいけど……なんか緊張するな」と苦笑い。坂口さんは「みんな頑張ってね。昔ちょっとだけ所属してただけだけど、同じサークルだし応援してるよ」と軽く手を振った。OBの応援は嬉しい反面、変に意識してしまうメンバーもいるようだ。
8. ステージ進行の遅れ、時間が押す恐怖
昼を過ぎ、ステージからは他団体のパフォーマンスの音や歓声が聞こえてくる。実行委員からも連絡が入り、「前の団体が少し押していて、スケジュールが10分ほど遅れそう」とのこと。つまり、私たちの出番は午後2時50分頃になるかもしれない。
「うわ、余計に落ち着かないな……」
翔が苦笑し、シズクは「遅れるなら遅れるで気持ちを整えるしかないわ」と意識を落ち着かせようとしている。初心者組の中には「緊張が長引くのはキツい」とつぶやく人もいる。
このまま待つのは精神的にも疲れるが、下手に外へ出て散策しているうちに呼び出される可能性もある。結局、私たちは楽屋近くで様子を見つつ、小さくストレッチや軽いステップの確認を続けることになった。
9. 衝突ではなく、励まし合い
合宿前なら、こうした進行の不確定要素にイライラするメンバーや、初心者組が不安で泣き出すような展開もありえた。しかし、今は違う。どんなトラブルでも、みんなが励まし合ってカバーしようという雰囲気ができている。
「風が強くなってきても、落ち着いて踊れば平気だよね!」
「音割れしたら、カウント取りながら合わせれば大丈夫!」
「真琴先輩、足が痛くなったら無理しないで!」
そんな声が自然と飛び交う光景に、私は胸を打たれずにいられない。合宿前には考えられなかったほどの団結力が、今ここにある。
10. ついに出番直前、呼び出しのアナウンス
午後2時40分を少し回った頃、テントに実行委員が息を切らしながら駆け寄ってきた。「ダンスサークルさん、そろそろ出番です。あと5分で準備お願いします!」との急な呼び出し。
「え、5分後!? さっき10分遅れるって言ってたのに……」
シズクが目を丸くし、初心者組が慌てて荷物を持ち、真由や翔も急いで衣装を整える。真琴はサポーターを再確認し、私は「みんな落ち着いて!」と声を張り上げているが、正直自分も頭が真っ白になりそうだ。
「文化祭の進行で前の団体が予定より早く終わったんだって! 申し訳ないけど、急いでステージ裏に入ってほしいって!」
実行委員がそう言い残し、私たちは半パニック状態で楽屋テントを飛び出す。ワクワクと恐怖が同時に込み上げ、呼吸が苦しくなる。
11. 舞台袖での小さなアクシデント
バタバタとステージ袖に到着すると、スタッフが小声で「いま前の団体が撤収中なので、もう少し待ってて。曲データは受け取りましたから用意はOKです」と告げる。
私たちは袖で慌ててフォーメーションを再確認したり、初心者組に「最初の立ち位置は?」「暗転は何秒?」と確認したりと必死。そこへ荷物が何かにつまずいたようで「わわっ!」という声が。
見ると拓也がディスコパート用の派手なジャケットをうっかり落としかけ、それが他団体の楽器ケースに引っかかったらしく、シュルシュルと滑っていく。
「ごめんなさい……」
あわてて拾いに行き、なんとか事なきを得るが、ほんの小さな不注意で大事になりそうな空気が漂っている。もう、何が起こってもおかしくない。
12. ステージに立つ瞬間、私たちの想い
「次のステージはダンスサークルの皆さんでーす!」という司会のアナウンスが響く。いよいよ出番。スタッフから「どうぞ!」と合図され、私たちはこれまでにない高揚と緊張のまま舞台へと足を踏み出す。
あたりは想像以上の観客で埋まっていて、体育館ステージよりも広い野外ステージが視界に広がる。風が心地よいようで、また心を乱すようでもある。
「よし……行こう!」
真琴・翔・咲のロックパート組が先頭に踊り出る位置につき、私やシズク、真由、初心者組が続いてそれぞれのスタンバイに入る。観客のざわめきが遠く感じられ、私の耳には自分の鼓動がドクドク響くだけ。
だけど、仲間たちの存在を感じると不思議と心が落ち着いてくる。合宿の苦労、音響リハの不安、真琴の足首問題、初心者組の頑張り――全部詰まったステージだ。ここまで来たら、あとは踊るだけ。
13. 音楽が鳴り響き、ダンスが始まる――
司会が「それでは、ダンスサークルの皆さんです! どうぞー!」とマイクでアナウンス。大きな拍手と歓声が聞こえてきて、私は自然と背筋が伸びる。
そして、BGMがスタート。ロックパートのイントロが野外ステージに轟き、佐藤 真琴・大谷 翔・中村 咲がまず動き出す。
「行くぞーっ!」
真琴の声がかすかに聞こえる。痛みもあるだろうに、体は躍動し、観客の視線を一気に引きつける。翔のコミカル×男らしさ、咲のまっすぐなエネルギーが合わさり、ロックパートが加速する。私はつなぎ演出担当として、ロックからクールに移る瞬間を見据えて、胸を高鳴らせながら待っている。
――ここから先は、もう私たちの全力パフォーマンスの時間。トラブルが起きても自分たちで何とかする。音が割れたらカウントを取る、風が吹いたら体を低くする、暗転がズレても動じない。合宿で身につけた“逆境慣れ”を思い出しながら、ひたすら踊りに集中するだけだ。
épilogue
こうして私たちの文化祭ステージが始まった。幕開けの歓声とともに、今まで積み重ねてきた努力が一瞬にして解放されていく。足首を押して踊る真琴、初心者組の勇敢なステップ、シズクのクールな切れ味、真由や翔の華やかさ。そして何より、チーム全員が一体となった瞬間だ。
まだ始まったばかりだけど、体の奥底から熱いものが込み上げてくる。私はリーダーとして、踊り子として、この舞台で最高の「ステップ・バイ・ステージ」を描ききるんだ――そう強く誓う。
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