――深夜の校舎裏に忍び込むフード姿の人間。
監視カメラにうっすら映った、その怪しい影が何をしていたのかは依然として不明。
だが、サーフボード盗難事件を解決する手がかりになるかもしれない。
そして、波止場で見かけた謎の人影と同一人物の可能性もある――。
俺、相沢航平(あいざわ・こうへい)は、
大谷知樹(おおたに・ともき)やマネージャーの橘ひなた(たちばな・ひなた)とともに、
夜の校舎裏にある“使われていない倉庫”を捜索する計画を立てることになった。
だが、勝手に夜の学校へ忍び込むわけにはいかない。
そこで、まずは顧問の黒川修二(くろかわ・しゅうじ)先生に相談することにした。
◇◇◇
1. 放課後の職員室にて
放課後、部活の時間帯。
サーフィン部の部室へ向かう前に、俺たちは職員室を訪れた。
大谷が「いやー、緊張するな。先生、どう言うかな」と言いながら扉を開けると、黒川先生はデスクで書類をチェックしているところだった。
「先生、ちょっとお時間いいですか?」
ひなたが恐る恐る声をかける。
先生は書類バインダーから顔を上げ、少し意外そうな表情を浮かべた。
「相沢、大谷、ひなた……どうしたんだ?」
俺たちはすぐさま本題を切り出した。
「監視カメラに、深夜に校舎裏を通る人物が映っていたと聞きました。
桐生生徒会長から『あの倉庫を調べてみるといい』と言われて……
それで、先生に許可をもらいたいんです。夜、校舎裏に行ってみることを」
黒川先生は目を細め、少しだけ沈黙する。
その横顔には迷いが浮かんでいるようにも見えた。
「夜の学校に立ち入るのは、本来なら問題がある。
だが……そうか、桐生がそう言ったのか」
「はい。もちろん、勝手には行動しません。
もし先生が一緒に来てくださるなら安心なんですが……」
大谷がちゃっかり提案すると、先生は一瞬驚いたようにこちらを見る。
「俺も一緒に? ……ふむ」
しばらく考え込んでから、意を決したように腕を組んだ。
「わかった。今日の夜は難しいが、明日なら都合をつけよう。
夜と言っても、あまり遅い時間は校則違反になるから、19時~20時くらいだな。
もちろん、お前たちが危険に巻き込まれないように、俺も同伴する」
ひなたが安堵の表情で「ありがとうございます!」と頭を下げる。
「ただし、当たり前だが大声を出したり、校内をめちゃくちゃにするんじゃないぞ。
倉庫は長らく使っていないが、一応学校の備品が置いてある場所だからな」
先生の低い声には、いつもの厳しさとどこか焦りをはらんだ響きが混じる。
「それに、正直言って、期待しすぎるのも危険だ。
ボードがそこにあるという保証はないし、むしろ何もない可能性だってある」
俺は小さく頷く。
確かにそうだ。
だが、やれることをやらなければ、事件は進展しない。
黒川先生が一緒なら、部員たちの「夜間の捜索」への抵抗感も少し薄れるだろう。
「わかりました。先生にも迷惑をかけないように、ちゃんと行動します」
先生は最後に「じゃあ、明日の夜だ」と確認して、デスクへ視線を戻した。
その横顔には、言いようのない疲労がにじんでいる。
(先生も先生で、色々抱えてるんだろうな……)
そう思いつつ、俺たちは職員室を後にした。
◇◇◇
2. サーフィン部の憂鬱な空気
その後、部室へ顔を出すと、今日も部員の集まりは悪い。
“ボード盗難事件”の暗い影響が続いているのか、練習に来る者自体が減っているらしい。
顔を合わせた部員からは、「結局何もわからないし、犯人探ししても意味あるのかな」などネガティブな声が上がる。
ひなたは必死に「今は踏ん張り時だよ」と励ましているが、どこまで響いているかはわからない。
やがて、川久保沙季(かわくぼ さき)先輩が部室にやってきた。
クールな印象だが、その瞳には苛立ちが宿っているように見える。
「……篠田先輩は今日は来てないの?」
「まだ見てないです。教室にも姿がなかったけど」
ひなたが答えると、沙季先輩はため息をつく。
「大会が近いのに、キャプテンが姿を消すなんて。怪我が痛むのかもしれないけど……私だって追い込みたい時期なんだけどね」
「うーん……」
俺たちは言葉を濁すしかない。
篠田先輩はこの数日、部室に顔を出してもすぐに帰ってしまうことが多いのだ。
足の痛みだけが理由なのか、それとも黒川先生との衝突が原因か……。
「とにかく、私だってちゃんと練習したいし、犯人が判明するならしてほしいし。
明日もまたダメなら、私から先生に直談判するかも」
そう言い残して、沙季先輩は沖へ行くかのようにスッと部室を出て行った。
彼女は自主練で海岸へ向かうつもりだろう。
ひなたが複雑そうな顔で呟く。
「沙季先輩は、本当に大会で結果を出したいんだと思う。
篠田先輩と一緒にインターハイ本戦を目指すのが夢だったって聞いたことがあるし……」
「そうなんだ……」
大谷が感心したように言う。
沙季先輩があまり部員と馴れ合わないのは、「才能があるから孤立してる」とかではなく、
純粋に“結果を出さなきゃいけない”というプレッシャーが強いのかもしれない。
(部の雰囲気が悪くなるのも仕方ないのか……。
篠田先輩がいない今、まとめ役は誰がするんだろう?)
そんな疑問が浮かびつつも、答えは出ない。
「とにかく、明日の倉庫調査で何か掴めればいいね」
ひなたはそう言って小さく拳を握り、笑ってみせた。
その笑顔は少しぎこちないが、今はそれが唯一の救いに見える。
◇◇◇
3. 消えたキャプテン、篠田の足取り
部活終了後、校門を出るときに偶然、誰かの姿がちらりと視界に入った。
見れば――篠田晃(しのだ・あきら)先輩本人だ。
「あっ、篠田先輩!」
ひなたが駆け寄ろうとするが、先輩は少し驚いた顔をしてから逃げるように歩幅を早める。
「ちょ、ちょっと待ってください!」と追いかけるひなた。
「航平、オレらも行こうぜ」
大谷に促され、俺も後を追う。
校門の外に出た先輩は、振り返らずに歩くスピードを上げた。
しかし右足に痛みがあるのか、やや不自然な足取りだ。
「先輩、足……大丈夫なんですか?」
声をかけると、先輩はふいに立ち止まり、苦しそうに息を吐く。
「……悪い、逃げるつもりはなかったんだ。ちょっと考え事をしてて」
「部室に来てくれればいいのに。沙季先輩も心配してるんですよ?」
ひなたが言うと、先輩は暗い表情を浮かべる。
「俺が行っても、何も変わらないからな……怪我を隠してても、部員たちに迷惑をかけるだけだろ」
「そんなことないです。キャプテンがいないと、みんな精神的に参ってます」
「……そうか」
篠田先輩は項垂れるようにうつむき、歯を食いしばった。
どこか自暴自棄になっている雰囲気が伝わってくる。
しばし沈黙したあと、先輩がぽつりと呟く。
「足の怪我は、思っていたより良くなくて……でも、俺はどうしても今回の予選に出たい。
黒川先生は止めるし、部員たちからは『休め』と言われるし、それが苦しくて……」
「じゃあ、先生と話し合えば……」
そう提案しかけた俺の言葉を、先輩は切るように遮った。
「話し合いなら何度もしてる。先生は『未来のためにも休め』としか言わない。
あのボードだって、“怪我を悪化させないために誰かが隠したんじゃないか”と思うことがある」
その言葉に、ひなたが息を呑む。
「先輩、まさか先生を疑ってるんですか?」
「……わからない。でも、そうとしか思えないくらい、今の俺には追い風が吹かない。
俺が無理をしてでも大会に出るのを、誰かが止めようとしてるのかも」
「そんな……でも証拠も何もないのに」
「わかってる。……勝手に言ってるだけだ」
篠田先輩は再び歩き出す。
その背中からは傷ついたオーラが漂い、近寄りがたい雰囲気があった。
俺たちは「お大事に……」と言うしかなかった。
悲しそうな横顔を残して、先輩は町の薄闇へと消えていく。
(まさか黒川先生が犯人、なんて……)
思い返すと、先生は「鍵が壊されていない以上、内部犯行も考えられる」と言っていた。
自分自身を除外しているわけではないが、そんなものは考えたくないという様子だった。
でも、篠田先輩の口から「先生を疑っている」という言葉を聞いてしまった今、
俺の胸には、妙な不安がこみ上げてくる。
(もし、本当に先生が……?
いやいや、そんなの早とちりだ。証拠もないのに)
大谷も苦い顔で「うーん……」とうなる。
ひなたは俯きながら、一言も発さず、ただ唇を噛んでいた。
◇◇◇
4. 夜の捜索の始まり
翌日。
黒川先生から「今日の19時に校舎裏で集合」と言われていた俺たちは、
放課後すぐにいったん帰宅し、夕食を済ませてから再び学校へ向かう。
敷地に入ると、海風が冷たく肌を刺す。
夜の校舎はどこか不気味で、足音が響くたびに心臓が高鳴る気がした。
正門付近で待っていると、黒川先生が現れる。
「よし、来たな。誰にも見られてないだろうな?」と少し警戒した様子だ。
実際、こんな時間に生徒が校内にいるのは異例だからだろう。
「さあ、急ぐぞ。長居はできないからな」
先生のあとに続いて、校舎裏へと回る。
ここには人気がなく、昼間とはまるで違う静寂が広がっていた。
「あれが、使われていない倉庫です」
先生が指さした先には、小さな鉄製の扉がある古びた建物があった。
窓もほとんどなく、外壁は錆び付いている。
「皆、足元に気をつけろよ。暗いから段差や瓦礫で転ぶかもしれない」
懐中電灯の光を頼りに近づくと、確かに扉の鍵はかかっていないようだった。
先生がゆっくり押すと、ギィ……と不気味な音がする。
埃っぽい空気が鼻を突き、ひなたが思わず咳き込む。
「ごほっ……。人なんていないですよね……?」
「わからん。気を抜くなよ」
大谷も緊張で声が上ずっている。
俺は胸の中がざわつきながらも、一歩ずつ倉庫の内部へ足を踏み入れた。
◇◇◇
5. 倉庫内部と古いサーフショップのロゴ
倉庫の中は薄暗く、埃まみれの備品が無造作に積まれている。
マットレスや古い教材、壊れた机など、長い間放置されてきたような感じだ。
「うわあ……。本当に使われてないんですね」
ひなたがつぶやくと、黒川先生は「俺が赴任する前から放置されてる場所らしい」と説明する。
懐中電灯をかざすと、床には何かを引きずったような跡があるようにも見えた。
大谷が「なんだこれ……?」とライトを当てる。
「何かをここに運んだか、持ち出したか……そんな感じがするな」
先生が静かに言う。
埃の層が部分的に薄くなっていて、ここ数日以内に何者かが動かしたような痕跡だ。
(やはり誰かがここに出入りしている?)
心臓が高鳴る。
もしかして、ボードをここに隠したのかもしれないという期待がよぎる。
「皆で手分けして探してみよう。危なくない範囲でな」
先生の号令で、俺たちは周囲の物をどかしながら探索を始める。
埃をかぶった木箱を動かすと、ゴトリと何かが転げ落ちた。
Wo ......!"
驚いてライトを当てると、それは古いワックスやサーフボードのフィンのような部品だった。
「何でこんなものが……?」
見覚えのあるサーフショップのロゴが入っている。
ひなたが「あれ? このメーカー、篠田先輩のボードと似てる……」と声を上げる。
「でも、これすごく古そうだし、先輩のではなさそう」
触れてみると、確かにずいぶん前からここに放置されていたような劣化具合だ。
しかしサーフショップのロゴが付いているのは間違いない。
先生がそれを手に取り、何とも言えない表情を浮かべた。
「……このメーカー、あまり流通していない。
昔、一部のプロサーファーがこぞって使っていたが、もう生産数が少ないはず」
「先生、詳しいんですね」
「まあな」
先生は呟きながら、その部品を静かに元の位置に戻した。
どこか遠い目をしているようにも見える。
(先生は昔、サーフィンをやっていたらしいし、このメーカーにも思い入れがあるのかも)
胸の中に疑問が芽生える。
“黒川先生とプロサーファーとしての過去”――そんな話をちらっと聞いたことがあるが、詳細は誰も知らない。
「ここにはボードそのものはなさそうだな……」
大谷が周囲をもう一度見渡す。
木箱や棚の裏を探してみたが、篠田先輩の大切なサーフボードは影も形もない。
「ここまで物が積まれてると、別の場所に移された可能性もあるよね」
ひなたが落胆の声をもらす。
「そもそも、篠田のボードがここにあったとは限らない。
ただ、何者かが最近動かした跡がある以上、完全に空振りではないが……」
先生は倉庫の奥へ歩みを進めていく。
その足取りに迷いが感じられる。
◇◇◇
6. 謎の足音と不気味な影
しばらく捜索を続けても、目立った成果はない。
「ここも空っぽだ」「埃しかない……」など、大谷やひなたの落胆した声が聞こえる。
そのとき――
廊下のほうで、小さな物音がした。
ギィ……という扉が軋む音、もしくは足音……?
「今の、何だ?」
大谷が息を呑む。
先生も「誰かいるのか?」と周囲を見回す。
俺は胸がバクバクして、懐中電灯を握る手がじっとり汗ばんだ。
(まさか、フードの男がまた……?)
恐る恐る倉庫の扉のほうへ戻っていくと、薄暗い廊下が静まり返っている。
窓から差し込む外灯の光で、うっすら床が照らされる。
「先生、気をつけて……」
ひなたが小声で警告する。
俺たちも懐中電灯であたりを照らすが、人影は見当たらない。
先ほど聞こえた物音は、いったい何だったのか。
「外に出てみるか」
先生が扉を少し開けると、夜風がひゅうっと吹き込む。
校舎裏を見回すが、人気はまったくない。
(気のせい……だったのか?)
気まずい沈黙の中、誰も口を開けない。
結局、確かな気配を捉えることもできず、俺たちは倉庫へ戻った。
「もしかしたら、動物かもしれないしな。
変に騒いでも仕方ない。とにかく、ここでの捜索はこのくらいにしよう」
先生の判断で、今回の倉庫捜査は打ち切られることになった。
結局、篠田先輩のボードは見つからず、手がかりらしきものは“古いサーフメーカーの部品”くらい。
どこか心残りではあるが、長居をすれば怪しまれるかもしれない。
(これだけで終わりなのかな……?)
不意にひなたが床を見つめ、「あれ?」と声を上げる。
「どうした?」
「ここ……埃が薄いです。もしかしたら何かを引きずった跡かな」
ひなたが指差した先は、さっき大谷が気にしていた床の痕跡とは別のライン。
本当にうっすらだが、何か重いものが通ったような、真新しい線が伸びている。
「あっちの方に向かってるみたい……」
皆でライトを照らしながら、線を辿っていくと、倉庫の奥の壁まで続いている。
そこでいきなり線が途切れていた。
「壁際……でも特に扉があるわけでもないし」
先生が軽く壁を叩いてみるが、コンクリートの手応え。
隠し扉なんて大掛かりな仕掛けはなさそうだ。
「ああ、時間がない。戻るぞ」
それ以上の探索は叶わず、先生に急かされるように倉庫を出る。
夜の校舎に長居は危険――それはわかるが、踏み込みたい気持ちも強い。
「今日はこれくらいにしておこう。また改めてチェックしよう」
大谷がそう言い、ひなたも名残惜しそうに倉庫の様子を振り返った。
◇◇◇
7. 物足りない夜と、漂う不安
俺たちは黒川先生の誘導で校舎裏を離れ、正門まで小走りに戻る。
敷地内を出るまで、誰かに見つかることはなかった。
時計を見れば、すでに20時近い。
普段の高校生活ではありえない時間帯に学校へいたことに、妙な罪悪感と刺激を感じる。
「何も得られなかったのは残念だが……無理は禁物だ。
これ以上は校則に触れる可能性もあるし、今日は解散しよう」
先生がそう切り出すと、ひなたは唇を噛んでからうなずいた。
「はい……でも、あの床の跡が気になります。
真新しい感じでしたし、誰かが何かを動かしていた可能性があるかも」
「そうかもしれないな。だが、いずれにせよ今日はここまでだ。
生徒が夜の校内をウロつくのは問題になる。
校長や生徒会長にも叱られちまうぞ」
それ以上言い返すこともできず、俺たちはとりあえず納得するしかなかった。
(先生も協力してくれてるけど、やっぱりどこか歯切れが悪いというか……)
そんなことを考えながら、みんなで校門を出る。
夜の町はひんやりとしていて、潮の匂いがほんのり肌をかすめた。
「お疲れさまでした」
大谷が軽く手を振り、先生に挨拶する。
先生は深いため息をつきながら、「風邪ひくなよ」とだけ言い残し、職員用駐車場の方向へ歩いていった。
ひなたはそんな先生の背中を見つめ、「先生、疲れてるみたい」とぽつり。
「篠田先輩の怪我のこととか、いろいろ気に病んでるんじゃないかな」
そう言われれば、確かに先生はいつもと違う落ち着かなさがある。
サーフィン部顧問としての責任もあるだろうし、篠田先輩との衝突が精神的に堪えているのかもしれない。
「帰るか……」
俺の言葉に、二人は黙ってうなずく。
今日の倉庫捜索は、ほとんど成果なし。
だが、真新しい床の跡と、夜の物音――何かが動いている気配だけは確かだ。
(あの倉庫に何がある?
昔のサーフショップの部品や埃まみれの備品……。
もしかして、別の場所にも隠しスペースがあるのか?)
考え始めるとキリがない。
夜道を歩きながら、俺は波止場の謎の人影や、フード姿の監視カメラ映像を思い出す。
――犯人は、今もどこかでボードを隠し持っているのだろうか。
その動機は?
本当に篠田先輩の怪我を案じての行動?
それとも、他の誰かが何かを企んでいる?
「……航平、どうした?」
大谷に声をかけられてハッと我に返る。
「いや、色々考えてた。明日からどう動こうかって」
「確かに、これだけじゃ埒が明かないよね」
ひなたも神妙な面持ちで頷く。
「もし先生があまり乗り気じゃないなら、桐生生徒会長に協力を仰ぐとか?
あの倉庫の鍵を公式に開けてもらう方法もあるかもしれないし」
――そうだ。桐生先輩なら、もう少し強い権限で校内の設備を調べさせてくれる可能性がある。
「やれることを全部やってみよう。俺も大谷も付き合うよ」
「うん、私も協力する。
篠田先輩のボードを取り戻して、みんなでまた練習できるように……」
ひなたの声に、決意がこもる。
このままじゃ終われない。
ボード盗難の謎が解ければ、部の雰囲気も少しは明るくなるかもしれない。
俺たちは夜の交差点で別れ、それぞれの家へ帰路についた。
道中、空に浮かぶ月がまるで俺たちを見下ろすように輝いていた。
「明日は……もっと深く踏み込んでみよう」
そう呟きながら、胸に広がる不安を振り払う。
波の音は聞こえないが、どこかで潮の満ち引きが俺たちを呼んでいるような気がした。
◇◇◇
Deja una respuesta