Episodio 2: "El misterio de la tabla de surf desaparecida" - "Parpadeando entre las olas, el coraje de aquel día".

――波の音が微かに聞こえる朝。

昨日の出来事がまだ頭に残っていて、どこか落ち着かない。

そんな気分を抱えながら、いつものように校門をくぐると、すでに大谷が待ち構えていた。

「おはよー、航平。どうだ、謎解きの進捗は？」

「……そんな探偵みたいな大げさなものじゃないけどね」

俺が返事をすると、大谷は口角を上げてニヤリと笑う。

「まあそう言うなって。サーフボードがいきなり消えたなんて、普通におかしいだろ？　

　物置の鍵は壊されてなくて、顧問の先生が管理してるわけだしさ」

Sí. ......."

「それに、昨日の篠田先輩のあの様子。『ただの紛失』じゃ済まない雰囲気あったぜ」

確かに。

昨日は放課後から夕方にかけて、みんなで校内や周辺をくまなく探したのに、何ひとつ手がかりが見つからなかった。

――ただのイタズラで終わるには、あまりにも不可解だ。

そこに、今日もまた元気な声が降ってくる。

「おはよー！　相沢くん、大谷くん！」

サーフィン部マネージャーのひなたが、少し走った様子で近づいてきた。

「ごめん、朝から急だけど……昨日の続き、聞き込みを手伝ってもらってもいいかな？

　今日こそ何かわかるといいんだけど」

「もちろん。俺も何かできるなら協力するよ」

すかさず大谷が「任せろ～！」と両腕を上げてノリノリで返事。

ひなたはホッとしたような笑みを浮かべる。

その姿を見ていると、なんだかこちらも元気が出てくるから不思議だ。

「ありがとう。実は、朝イチで顧問の黒川先生が『部員の聞き取りをきちんとやりましょう』って言ってくれたの。

　だから、今日の放課後にみんなが部室に集まることになってるんだ」

「黒川先生が……」

大谷は意外そうな表情をした。

昨日の段階では、先生自身が率先して捜査に乗り出していたわけでもなさそうに見えたからだ。

俺は心の中で少し引っかかりを覚えつつも、「わかった」とうなずく。

「放課後、部室に行くよ。

　大谷と一緒なら余計に目立つだろうし、何かしら話がスムーズに進むかも」

「はは、オレって盛り上げ役かよ」

大谷は嬉しそうに笑い、ひなたも「よろしくね！」と返してくる。

こんなふうに頼られるのは悪い気がしない。

――いや、むしろ「ちゃんと力になりたい」と思う自分がそこにいた。

◇◇◇

朝のHRと微妙な空気

朝のホームルームが始まる。

担任からの連絡事項がひととおり終わったあと、クラスメイトの雑談がちらほら聞こえてきた。

「ねえ、サーフィン部の篠田先輩のボードが盗まれたってホント？」

「なんか大変らしいよ。部室の周り、昨日は大騒ぎだったし」

――やはり噂は広まっているようだ。

サーフィン部はこの学校でも目立つ存在。インターハイ予選を控えたエースがいる部活だから、当然といえば当然かもしれない。

大谷が俺のほうを見て、「こりゃ今日の聞き込みでさらに面白くなりそうだな」と目を輝かせる。

正直に言うと、“面白い”というより“緊迫感がすごい”というのが俺の印象だ。

（篠田先輩……昨日は本当に辛そうだった）

足をかばっているように見えたのも気になる。

何か大きな理由があって、ボードを絶対に取り戻したいのだろう。

そんな考え事をしていると、あっという間に1時間目が始まってしまう。

微妙な落ち着かなさを抱えたまま、授業へと集中を切り替える。

◇◇◇

放課後――サーフィン部集合

その日の授業が終わり、約束通り大谷と一緒にサーフィン部の部室へ向かう。

途中で合流したひなたと3人でドアを開けると、すでに何人もの部員が待っていた。

「あ、来てくれたんだ。ありがたい」

声をかけてきたのは、見覚えのある上級生……**川久保 沙季（かわくぼ さき）**先輩だ。

昨日はチラッとしか顔を見ていなかったけれど、クールな雰囲気をまとっている。

2年生で、女子ながら天才サーファーと呼ばれる実力者らしい。

沙季は、ちょっと疲れたような表情を浮かべている。

「篠田先輩が今日来るか微妙だったんだけど、さっき顔を出してすぐ外に行っちゃったみたい。

　私は聞き込み云々より、早く練習再開したいんだけどな……」

「そ、そうなんですね。篠田先輩は今どこに？」

ひなたが少し慌てて訊ねると、沙季は肩をすくめる。

「さあ。多分、海岸じゃない？

　予選が近いのにこんなトラブルがあって、まともに練習できないのは辛いでしょ」

大谷が「うーん、そりゃそうだ」と頷く。

確かに部の中心人物の道具が消えたら、練習どころじゃないのは当然だ。

しばらくすると、部室の奥からDr. Shuji Kurokawa.が現れた。

「みんな揃ったか？

　昨日の続きで聞き込みや、物置の状態確認をしようと思う。相沢たち2年生も手伝ってくれるそうだな」

その言葉に、部員数名がざわつく。

「他クラスの人も参加するの？」という眼差し。

だが、ひなたがすかさず「黒川先生からもOKをもらってます」とフォローし、一件落着。

先生は俺たちを見て微かに笑みを浮かべたように見えるけれど、その瞳は少し険しい。

（事件解決に本気で取り組んでるのか……それとも？）

何とはなしに、昨日抱いた“違和感”が再び胸の奥でくすぶる。

だが、この時点ではそれが何なのかはっきりとはわからなかった。

◇◇◇

部員への聞き込み開始

黒川先生が提案したのは、サーフィン部員それぞれの「当日の行動確認」だ。

物置が最後に開けられたタイミングや、鍵の所在をしっかり洗い出すことで、ちょっとした矛盾を発見できるかもしれない。

「一人ずつ、何か気づいたことや不自然な点があれば言ってほしい。

　もちろん、誰かを直接疑うわけではないが、当日の状況を明らかにしないと解決しないからな」

先生の落ち着いた声が部室に響く。

集まった部員は、真剣な面持ちで話を聞いている。

そして、部員A、B、C……と順番に話が進んでいく。

「夕方の時点でボードはあった」「私はその日は早退した」など、細かい証言が出てくるが、目立った収穫はない。

しばらくして、ひなたが手を挙げる。

「私も、最後に鍵を閉めたのは篠田先輩と一緒でした。

　夕方6時ごろに部室を施錠して、物置も同時にロック。　

　そのあと、黒川先生に鍵を渡そうと探しましたが、先生は職員会議中だったので……」

そこで言葉を切り、ひなたは先生のほうを見る。

黒川先生は「うむ」と頷いてから答える。

「俺はその日、職員会議が終わったのが7時前後だ。　

　ひなたから鍵を受け取ったのは……職員会議が終わってすぐだったな」

「はい。だから鍵の管理は、私たち2人から先生へ渡されるまでの間、ずっと私たちが持っていました」

そのタイムラインに大きな乱れはない。

だが問題は“その後、いつボードが消えたのか”だ。

鍵は黒川先生のもとにあり、翌朝までは実質「誰も物置に入れない」状態のはずなのに、ボードだけが消えている。

大谷が興味深そうに唸る。

「先生、職員会議が終わってから帰るまで、ずっと鍵は持ってたんですよね？

　その後、物置を開けたりとか、誰かに鍵を渡したりは？」

「いや。俺はそのまま職員室にカギをしまって帰宅した」

先生の言い切る口調は、ゆるぎない。

（そこに嘘があるのかどうか……）

俺はじっと先生の表情を見つめる。

だが、特に動揺しているようには見えなかった。

部員たちは「鍵が壊されてないなら外部犯行は考えにくい」「じゃあ誰がどうやって……」とざわめき始める。

そこに、黒川先生が鋭い視線を投げた。

「皆まで疑うつもりはないが、状況的に“内部の人間”が関わっている可能性もある。

　もし心当たりがあるなら、早いうちに名乗り出てほしい。

　これは大会以前に犯罪行為だからな」

その言葉に一瞬で空気が凍りつく。

「内部の人間……」つまり部員の誰か、または先生自身やマネージャーなど“関係者”がボードを隠した？

（部員を信じているはずの顧問が、こんなふうに言うのは相当追い詰められてるのか……）

だけど、部員たちの顔からは怒りや不満がにじむ。

「何で俺たちを疑うんだ」と言わんばかりの雰囲気。

沙季も険しい表情で口をつぐむ。

そのとき、バタンとドアが開いた。

入ってきたのは篠田先輩。

「……先生、言い過ぎじゃないですか」

低く静かな声に、緊張感が増す。

◇◇◇

キャプテンの心情

「先輩……！」

ひなたが駆け寄ろうとするが、篠田先輩は首を振る。

無言の制止だった。

「あのさ、先生。

　たしかにこの状況はおかしい。でも、俺たち部員はみんな仲間ですよ？

　そんな疑いの言葉を投げかけて、どうなるんです」

強い調子の非難ではなく、静かな中に怒りが込められた声だ。

黒川先生は片眉を吊り上げ、しかし落ち着いたまま答える。

「篠田、お前が一番困っているだろう。

　大会用のボードを失ったまま時間だけが経てば、インターハイに支障が出る。

　だからこそ、俺は早急に真相を突き止めたくて……」

「だったら、もっと他に言い方があるんじゃないですか！

　みんな必死で探してるんです。先生の言葉で余計に部の雰囲気が悪くなるのは、見たくない」

部室に張り詰めた空気が漂う。

わずかに沙季が視線を伏せ、他の部員も息を飲んでいる。

ひなたが困ったような表情でオロオロ。

俺と大谷は、場違いなほど外部者っぽく立ち尽くすしかない。

（なるほど……先生と篠田先輩の間に、何かしらの“温度差”があるんだな）

そう感じた矢先、篠田先輩は「すみません……」とだけ言い残して、また部室を出て行こうとする。

「待ってください、篠田先輩……！」

ひなたが追いかけようと一歩踏み出した瞬間、篠田先輩の足がグラリと揺れる。

「……っ！」

慌ててひなたが腕をつかんで支える。

その足取りは明らかにおかしい。痛みをこらえているかのようだ。

「先輩、足……どうしたんですか？」

「いや、何でもない……！」

怒ったように振り払われ、ひなたはたじろぐ。

部員たちは「キャプテン、足怪我でもしてるのか？」とさらにざわついた。

しかし篠田先輩は何も言わず、強く唇を噛んで扉を開ける。

廊下に向かう背中からは、痛々しさと苛立ちがにじみ出ていた。

（もしかして、この足の怪我……結構深刻なんじゃ？）

そう思ったものの、あの剣幕では声をかけづらい。

黒川先生はその場でため息をつき、やや苦い顔をした。

「悪かったな、みんな。

　……聞き込みはここまでにしよう。何か新しい情報があれば、すぐに教えてくれ」

ひなたがそれを見て、申し訳なさそうに視線を落とす。

部員たちも気まずそうに散っていき、部室には俺と大谷、ひなた、それに先生――という面々が残った。

◇◇◇

黒川先生と短い会話

部室に静かな空気が戻ったあと、黒川先生がポツリと言う。

「相沢と……大谷だっけ。今日は手伝いありがとうな」

その声は、さっきの厳しい調子とは一転、教師らしい柔らかさが混じっていた。

ひなたが「せ、先生、どうするんですか？　これから……」とたずねる。

「俺は一度、職員室に行って状況を整理する。

　篠田のボードについては、引き続き敷地内や周辺海岸を見回るしかないだろうな……

　犯人が何を考えているのか、まだわからないからな」

「犯人……やっぱり先生は、誰かが意図的に盗んだと思ってるんですか」

俺が思わず口を挟むと、黒川先生は軽く首を横に振る。

「断定はしない。でも、“自然消失”なんてありえない。

　必ず誰かが持ち出している。

　鍵が壊されてない以上、どうやって外に持ち出したのか――

　そこに、この事件のキモがあるんだろう」

（確かに……）

鍵を壊さずにボードを持ち出すには、何らかの方法で物置を開ける必要がある。

顧問の先生と篠田先輩、マネージャーのひなたあたりが直接管理しているなら、勝手に拝借は難しいはず。

「先生は職員会議のあと、どこかで鍵を誰かに渡したりしてませんか？」

直球で訊ねると、先生は少しだけ眉をひそめた。

「……いや。さっきも言ったように、鍵は職員室にしまっておいた。

　夜中に誰かが勝手に取りに来た可能性は否定できないが、鍵を見つけ出すのは容易じゃないはずだ」

「そうですよね……」

先生の返答に嘘があるようには見えない。

少なくとも“外見”は。それでもまだ何か得体の知れないモヤモヤが残るのは何故だろう。

（思い込みかもしれない。でも、先生が事件解決に消極的だなんて印象を、昨日は受けたんだけどな……）

今、こうして表向きは捜査をリードしている。

もしかして、気のせいだったのかもしれない。

「今日はご苦労だったな。相沢たちも、無理しすぎるなよ」

そう言って、黒川先生は部室を後にした。

◇◇◇

ひなたの不安

先生が去り、大谷も「もう今日は帰るかー」というムードになった。

けれど、ひなたは部室の隅でガックリと肩を落として座り込んでいる。

「……ひなた？」

俺がそっと声をかけると、彼女はか細く微笑み返す。

「ごめん、私がしっかりしてたら……篠田先輩のボード、こんなことにはならなかったかもしれない」

「そんなことないよ。

　ひなたは、ちゃんと部活を支えてるじゃないか」

「ううん……。篠田先輩、足を痛めてるのも事実みたいだし、なのにボードまで消えちゃって……

　あの人、今どんな気持ちなんだろうって思うと、胸が苦しくて」

そう語るひなたの瞳にうっすら涙が浮かんでいるように見えた。

大谷が「おいおい、こんなことで泣くなよ」と慌てている。

「泣くつもりはないけど、なんか悔しくて」

ひなたは唇をきゅっと結ぶ。

「私、サーフィンは怖くてできないけど……それでも、この部活が好きだし、みんなを支えたい。

　だから、こんな形で誰かが傷つくのは嫌なんだ」

その真摯な言葉を聞くと、こちらまで胸が熱くなる。

ひなたは“やりたいけど踏み出せない”という気持ちを抱えながらも、部員たちを支える役に徹しているのだ。

自分と少し重なる部分があるかもしれない。

俺も本当はサーフィンに興味があったくせに、結局は何もせず、ここまで流されるように過ごしてきた。

（もし俺がひなたみたいに頑張っていたら……いま頃はサーフィン部員として一緒に戦えてたのかな）

そんな考えが頭をよぎる。

「……でも、一緒に探してくれてありがとう。相沢くんと大谷くんには感謝してる」

ひなたの言葉は素直で、こちらが照れくさいほどまっすぐだ。

大谷が「なんのなんの。こういう盛り上がる展開、オレ大好き！」と陽気に返し、場の空気を和ませる。

「まあ、今日で終わりじゃないし、まだわからないことだらけだよな。

　明日からもちょっとずつ聞き込みしてみようぜ？」

その言葉に、ひなたは力強く頷いた。

俺も「俺で良ければ協力する」と声を重ねる。

不安はまだ消えないが、どうにかして篠田先輩のボードを取り戻すため、できることをやろう。

◇◇◇

帰宅の途中――夜の波音

部室を出て、昇降口まで歩いてくるころには、外はすっかり暗くなっていた。

海沿いなので夕暮れが早く、夜の静寂が町に広がる。

大谷とはそこで別れ、俺は一人で校門を出る。

帰り道はどことなく寂しく、砂混じりの風が耳に当たる。

ふと、横道から潮の匂いが強く漂ってきた。

少しだけ回り道をして、海辺に行ってみようと思う。

夜の海は薄暗くて、波音が大きく響く。

白波の先が月明かりに照らされてキラキラ輝いていた。

「……やっぱり、綺麗だな」

そう呟きながら、砂浜まで足を運ぶ。

気温は少し肌寒いが、波打ち際に立つと心が落ち着く。

――学生の頃、海に憧れたっけな。

昔、家族旅行でサーフィンを体験して、「海って自由だ」と思ったんだ。

だけど中学に上がるころには部活も色々あるし、タイミングを逃して……気づけば今の自分。

「俺も……もしかしたら、サーフィン部に入ってたのかな」

そんなもしもの話を呟いて、苦笑する。

いまさら遅いかもしれない。

だが、今回の事件に首を突っ込むうちに、何かが変わる予感がしている。

それは明確な期待とは言えないが、“踏み出すきっかけ”のようなものが、近くにある気がしてならないのだ。

月を見上げ、大きく息を吐く。

（篠田先輩、どうか無事にボードが見つかりますように）

（そして、ひなたや部員たちがこれ以上苦しまないように）

祈るような気持ちで波打ち際を見つめ、俺はゆっくりと踵を返した。

翌日の朝には新たな情報が掴めるだろうか。

そう期待しながら、砂浜を離れて暗がりの道を歩き始める。

◇◇◇

その夜、校舎裏の人影

――その頃、学校の体育館裏。

人気のない夜の校舎に、ひとつの影が忍び込んでいた。

フード付きパーカーを被り、顔を隠すような恰好。

暗い夜道をスッと移動し、まるで鍵を持っているかのような手つきで扉を開ける。

その先には、小さな倉庫がある。

埃まみれの備品が放置されているこの場所に、フードの人物は迷いなく足を踏み入れた。

微かなライトが照らした先に、大きなサーフボードのようなシルエット。

――しかしそれは完全体のボードではなく、古いサンプル品のようにも見える。

一体この人物の目的は何なのか。

倉庫に響く、かすかな息遣い。

そして、ドアの閉まる音。

不穏な気配を残したまま、夜の校舎はまた静寂に包まれていく。

「……悪いが、もう少し……待ってくれ……」

小さく呟く声が、闇に溶けた。

◇◇◇

——第2話 終——