第16話「運命のステージリハ、15分の奇跡と試練」
1. ついに迎えたリハ前日
文化祭本番まであと2日。今日はその前日にあたる平日で、私たちダンスサークルは正午からの公式ステージリハーサルに臨むことになっている。
そもそもリハはたった15分しかないと告知されていて、ダンスメドレー(約10分)を通しで踊るだけでもギリギリ。音量や照明の細かい調整は絶対に無理だろう――そんな状況だ。
私はリーダーとして朝早くからそわそわし、教室の窓から外を見ていた。学内はすでに学園祭特有のカラフルな装飾が施され、屋外ステージや模擬店の設営が急ピッチで進んでいる。
「あと2日か……ほんとにここまで来たんだよね……」
思わず独りごちる。ここ最近の怒濤の準備や問題対応で、時間が経つのが早かったような遅かったような、不思議な感覚に襲われる。足首を痛めていた真琴、音響リハ不足、衣装の品切れトラブル、初心者組の自主練――数え切れないほどの壁を乗り越えてきた。
今日、ステージで実際に踊ってみる。果たしてうまくいくのかどうか――考えるだけで心臓が高鳴る。
2. いざステージへ、緊張の会場入り
午前11時過ぎ、私たちは大学敷地内の野外ステージ横に集合した。もちろん、本番当日も同じこの場所がステージとなる。練習室と違い、開放感があり、風の影響もある。
桜井 小春(さくらい こはる)――私と、**大谷 翔(おおたに しょう)**が先頭に立ってステージスタッフの指示を受ける。宮田 シズク(みやた しずく)や鈴木 真由(すずき まゆ)、そして初心者組の面々も一気に押し寄せ、周囲はバタバタだ。
「今回のリハーサルは持ち時間15分。曲を通すだけで精一杯だと思いますが、なるべくステージの出入りや立ち位置を確認してくださいね。あと、音響トラブルがあるかもしれないので気をつけて」
ステージスタッフがそう伝えた直後、私の胸はドキリとする。そう、機材トラブルの噂は絶えない。せめて通しで踊れれば御の字だろう。
ふと横を見ると、**佐藤 真琴(さとう まこと)**がサポーターを着けた足をさすりながら、静かに深呼吸をしていた。痛みはまだ少し残っているようだが、ここまで本格的に回復してきたのは奇跡的とも言える。彼女の瞳は「やるしかない」という決意に満ちている。私も負けていられない。
3. リハーサル開始、そして突発のアクシデント
12時ちょうど。ステージリハの時間になり、スタッフから「準備OKです。15分しかありませんから、急いで!」と急かされる。
私たちダンスサークルは慌ただしく舞台袖に移動し、ポジションに入る。まだ衣装は本番用の一部だけだが、それでも踊る準備はバッチリ。音源を持ってきた翔がスタッフに渡し、曲をかける合図を待つ。
「よし……行くぞ!」
翔と視線を交わし、みんなで円陣を組もうとした矢先――突然、ステージスピーカーからガリガリというノイズが響き、「プツッ」と音が途絶えた。
「え、何……?」
スタッフが慌てて機材を確認し、「すみません、何か配線が緩んでるかも……ああー、こっちのケーブルが!」と大騒ぎ。結局、直すのに3分ほどかかり、私たちは舞台袖でじりじりと待たされる。
「この3分が痛い……」
誰かが呟き、同時に全員の心中に焦りが走る。15分しかないリハのうち、もう3分が消えた。残り12分ほど。通しで踊りきるにはギリギリだ。
4. ようやく流れた音、風の影響と段差の恐怖
再び「OKです!」というスタッフの合図があり、今度こそ音源が再生される。ロックパートのイントロがステージに響くと、私たちは息を揃えて飛び出す。
だが、いざ踊り始めると、いつもの練習室と勝手が違う。風が吹き付けて体が思うように動かないし、床の段差や凹凸で足を取られそうになる場面も。翔が「うわっ」と軽くよろめき、初心者組の誰かが「やば……」と声を上げる。
それでも、ここまで培ってきたチームの団結力で何とかカバー。真琴、翔、咲の三人体制ロックパートは、大きなトラブルなく曲が進む。真琴は足の痛みでジャンプを抑えているが、それでも存在感は十分。咲の動きは風にも負けず、翔はコミカルさを失わずに踏ん張る。
「いける……やっぱりみんな強くなってる!」
私は内心、胸が熱くなりながらフォーメーションに加わる。お世辞にも完璧ではないけど、本番に近い臨場感が味わえるのはやはりステージならではだ。
5. 音割れとスタッフの声、連携不足の洗礼
ロックパートが終わり、クールパートに入るあたりで、またしてもトラブル。今度は突然スピーカーが音割れを起こし、低音がビリビリと耳を裂く。スタッフが走り寄り、「音量を下げてくれ!」と指示を出す。
しかし、対応が遅れたのか、音が一瞬ガクンと下がり、私たちは拍子抜けしたような踊りを続けることになった。テンポが変わったわけではないのに、音響の迫力が落ちたせいでリズムが取りにくくなる。シズクも焦りを隠せないのか、ステップの精度が微妙に乱れるのがわかる。
それでも初心者組を含め、みんな表情を崩さずに踊り続ける。「ここで止めたらリハにならない!」という思いが全員に伝わっているのだろう。ディスコパートに移っても音量は低めのままだが、翔や拓也たちが体全体で盛り上げる。
結局、通しで踊りきった頃には、最初の配線トラブルや音割れの対処に時間を取られ、リハーサル終了の合図が鳴る。私たちはステージに立ったままハアハアと息を整えながら、「もう時間切れ……?」と顔を見合わせる。
6. リハ終了、何も確認できないまま
ステージ裏に戻ると、スタッフに「すみません、トラブル多くて……本番までに何とか直しておきます」と謝られるが、正直こちらとしてもどうしようもない。「あと質問あるならどうぞ」と言われても、聞いたところで答えは曖昧だろう。
真由が照明の暗転タイミングを確認したくても、その時間さえもうない。初心者組がフォーメーションの移動をもう一度試したくても、すでにリハ枠は終了。別の団体が待機しているため、ステージから速やかに撤収を求められる。
私たちはため息をつきながら楽屋スペースに荷物をまとめ、「え、これで終わり……?」という空気を噛みしめる。
桜井 小春としても、全力でパフォーマンスしながら「ここを直そう」と思った箇所がいくつかあるが、時間がないために明確な確認はできないままだ。メンバー全員、不安を抱えたままリハを終える結果となってしまった。
7. 凹むメンバー、そして真琴の鼓舞
リハ後の集合場所。みんな一様に暗い顔をしている。特に初心者組は「風でバランス崩しちゃって……」「音が聞き取りづらかった……」と落ち込んでいるようだ。翔も「本番で音割れとか勘弁してほしい」と頭を抱え、真由は「暗転が実際どのくらいできるのかわからないままだし……」と消沈。
そこに声を上げたのが真琴だ。「おいおい、そんな暗い顔してたら本番に響くぞ!」と大きな声で喝を入れる。足首をかばいながらも、彼女は前に立って続ける。
「確かにリハはトラブルだらけだった。でも、アタシたちはみんなでここまで仕上げてきたじゃん? 舞台で踊るのはアタシたちなんだから、最後まで諦めなきゃ絶対に大丈夫だろ!」
真琴が言葉を続ける。「音が割れようが、照明が期待と違おうが、アタシたちは踊りきるしかない。そのパワーを観客にぶつければ、絶対伝わるって。誰だって最初は不安だけど、今が踏ん張りどころだろ?」
真琴自身、怪我の不安を抱えながら必死で立っている。そんな彼女の言葉には説得力があり、メンバーも少しずつ表情が上向いてくる。「そうだね、あきらめちゃダメだ」「ここまでやってきたんだ、やるっきゃない」――声があがり、空気が和らいだ。
8. 小春の不安、でもリーダーとして
真琴の熱い言葉がメンバーを奮い立たせる一方、リーダーである私は心の中でこみ上げる不安を抱えていた。リハでは思うようにステージ環境をチェックできず、トラブル対策も未知数。残り2日しかないこの状況で、何ができるのか?
しかし、暗い顔をしているわけにはいかない。真琴があそこまで鼓舞してくれているのに、私がリーダーとして落ち込んでいたら台無しだ。
「……みんな、本番まであと2日だけど、仕上げの練習はまだできることがある。明日、大学の練習室が空いてる時間に、もう一度通しをやろう! 風は再現できないけど、フォーメーションの確認や体力調整はできるはず。音が聞こえにくいなら、口でカウントを取る練習を増やそう!」
私が声を張り上げると、「おー!」という力強い返事が返ってきた。真琴も「それで行こう」と笑顔を見せ、翔やシズク、初心者組も頷く。ここで投げ出したら、私たちが積み上げてきたものが無駄になる。最後まで走り抜く覚悟を持とう、と決意が湧き上がる。
9. 裏方スタッフ不足、咲の決意再び
リハ後の集合解散時に、実行委員のスタッフが近寄ってきて「あの、ステージ裏のスタッフがどうにも足りなくて……もしお手伝いしてもらえるなら、当日も準備をお願いしたいんです」と声をかけてきた。
前に咲が「合間に手伝う」と言っていたが、本番当日は彼女だってセンターで踊る時間がある。普通なら無理な話だが、咲は「合間に少しだけなら大丈夫です!」と即答。初心者組の中にも「僕も休憩時間に手伝えますよ」と申し出る人が出てきた。
「いや、そんな、出番前の緊張状態なのに無理しないで……」と私が止めるも、咲は「大丈夫、むしろ裏方を見ることでステージ構成が頭に入るかもしれないし!」と笑う。
彼女の積極性には頭が下がる。合宿前は自信がなさそうだった咲が、ここまで変わるなんて……。私もリーダーとして頑張らなくちゃ、と背中を押される思いがする。
epílogo
こうして公式リハーサルは幕を閉じた。トラブルまみれでほとんど収穫らしい収穫は得られなかったけれど、逆に言えば「どんな状況でも踊りきるしかない」とチームの覚悟が高まったのも事実だ。
真琴の足はまだ完治とまでは言えないが、3人で作り上げるロックパートに光が見え、初心者組も咲をはじめ舞台裏の助っ人まで引き受けようという頼もしさを見せる。明日、本番前日の最終チェックが終われば、あとは文化祭当日を待つだけだ。
paso a paso――ここまでの道のりは長かったし、まだ不安は山積み。しかし、私たちはもう立ち止まらない。限られた時間の中、できる限りの調整をして、最高の笑顔で舞台に立つんだ。
「よし……明日が最後の練習。やれるだけやろう!」
夜の大学の門を出る際、私の胸には不思議と温かい想いが込み上がっていた。ここまで来たら、あとは“信じる”しかないのだ――。
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