1. 床下への入口
理科室の奥にある床下の入口を発見したソレナトリオ(レオ、ナオキ、ソウタ)は、かすかな「助けて……」という声がその下から響いてくるのをはっきり感じていた。鏡の世界の理科室には、そんな隠しスペースがあったのか――三人は胸を高鳴らせながら、懐中電灯を向けて底を覗きこむ。
「思ったより深そうだな。下には何があるんだ?」
レオが不安を押し殺すように声を張り上げるが、返事はない。ただ、うっすら湿った空気と淡い光が床下の暗闇に漏れているように見える。ソウタは息を呑みながらも、「誰かがいるなら、僕たちで助けなきゃ……」と小さく決意を語る。
2. 降りていく三人
床下へ繋がるハッチは錆びついた金属製の取っ手がついており、開けようとするとギギッと嫌な音を立てる。ナオキが恐る恐る取っ手を回し、レオが力を込めて引き上げると、隙間からほこりの混じった冷たい空気が吹き抜けた。
「うわ、下も暗い……」
ソウタが震える声で呟き、懐中電灯を照らす。ハシゴのようなものが途中で折れているらしく、しっかり体重を預けられるかわからない。それでもナオキが「慎重に降りれば大丈夫」と声をかけ、レオが先頭でゆっくり足を下ろし始める。
不安に駆られながら、三人は続けて暗闇に身体を沈めていく。すると、はっきりと声の方向が近づいてくる感覚がある。「助けて……」という切迫した声が、もう耳元で聞こえるほどになっていた。
3. 封じられた空間と鎖
床下の空間は想像以上に広く、地下室のような構造になっているのが懐中電灯の光でわかる。四方の壁はレンガのようなブロックで組まれ、天井には配管が何本も通っている。まるでこの校舎が建つ前の時代に作られた、貯蔵庫のようにも見える。
「なんだこれ……鎖が張ってある」
レオが前を照らすと、壁沿いに古びた鎖が縦横に渡され、まるで何かを封じ込めるための柵のように見える。鎖には錆びた南京錠が掛けられており、いくつかは取れて床に散らばっているが、一部はまだしっかり固定されている。
ソウタは息を吞んで「こんなところに閉じ込められたの……?」と声を震わせる。ナオキは理屈を超えた何かを感じつつ、「声の主はこの奥かもしれない」と進む決意を固める。
4. 声の主との遭遇
三人が鎖をまたぐようにして奥へ進むと、そこには粗末な椅子と机があり、そのそばの床に何かが落ちているのが見えた。懐中電灯を向けると、それは人の姿――ではなく、ぼんやりと透けた“人型”の影のように見える。
「助けて……」
切羽詰まった声が、今まさにこの影から放たれている。ソウタは「うわっ……!」と驚くが、レオは「やっぱり……幽霊か、何かの“想い”か」と息を整える。ナオキは理屈を飛び越え、まず行動しなければならないと思い立つ。
影は薄暗く滲んだようにしか見えないが、どうやらかつてここで何かを研究していた人物の跡かもしれない。体が鎖に縛られているようにも見え、必死に助けを求めるような姿勢をとっている。
5. 友情と封印を解く力
「どうする……?」
レオが苦悩の声を出すが、ナオキはとっさに古びた南京錠を調べはじめる。何かしら仕掛けがあるはずだと判断したからだ。 ソウタは影に近づきつつ「大丈夫……助けるから……」と優しく声をかける。
すると、影はわずかに動いた気がする。三人が力を合わせて錆びた鎖を引き剥がし、南京錠をこじ開けようとするが、固くて簡単には取れない。
「チクショウ、壊れるか……?」
レオが力任せに引くが、崩れ落ちそうな壁に負担をかけるのは危険だ。ナオキは一瞬考え込むものの、「もう理屈じゃない、やるしかない!」と叫び、三人が同時に力を込めた。その瞬間、鎖がバキンと音を立て、錆びた南京錠が砕け散るように外れた。
6. 瞬間の解放と安らぎ
鎖がほどけると同時に、影は一気に光を帯びて薄い煙状に変化し、ふっと天井へ向かって上昇するように消えていった。まるで永遠に封じられていた“何か”が解放されたかのごとく。
「……助かったのかな、あの人は」
ソウタが涙目で言うと、ナオキは放心した表情で頷く。レオは「こんなこと、あり得るのかよ……」と呆れ半分、感動半分の口調だ。
声はもう聞こえない。重苦しい空気もすっかり和らぎ、地下室のような空間はただ薄暗い静寂に包まれている。だが、三人には確かな手応えがあった――**“声の主を解放する”**ことが、この六つ目の不思議の真の解決だったのだ。
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