第六章①:声の主を探して

1. 理科室を離れた先に

五つの不思議を解決し、いよいよ六つ目の謎へと挑むソレナトリオ(レオ、ナオキ、ソウタ)。鏡の世界の校舎を巡る中、彼らの耳に入ってきた噂は「理科室の声」だった――誰もいないはずの理科室で、夜な夜な「助けて……」というかすかな声が響くという。
先日、動く人体模型の謎を解いたのも理科室絡みだったが、今回の噂はまた別件らしい。「理科室の夜、誰もいないはずなのに声が聞こえる」「声の主はどこにも見当たらない」という怪談めいた話だ。レオとソウタは早速事実を確かめようと気合を入れ、ナオキは首をひねりながら「次から次へと面倒なことばかりだな……」と呟く。
「でも、もう六つ目なんだろ? あと少しで全部……」
ソウタが前向きに言うと、レオは胸を張り、「それな!」と気持ちを高めた。ナオキも苦笑しつつ、「謎が多いほどやりがいはあるけど、気を抜くなよ」と釘を刺す。


2. 鏡の世界での不穏な気配

鏡の世界の夜は相変わらず薄暗く、廊下には微かな風が吹き抜ける。前の不思議を解決した疲れと、この世界に漂う重苦しい空気が相まって、三人はどうしても足取りが重くなる。
「理科室の声って……前に動く人体模型を解明したときは、そんな声は聞こえなかったよな」
レオが思い返しながら言う。ナオキも同調して、「あのときは“仕掛け”が原因で模型が動いていたが、今回は“声”か……まったく違う現象だろうな」と分析を試みる。
ソウタは胸騒ぎを抑えきれず、「誰が『助けて』って言ってるんだろう。幽霊とかじゃないよね……」とおどおどする。しかし、この鏡の世界では、幽霊や想いが具現化していてもおかしくないと三人とも覚悟していた。


3. 新たな理科室

階段を上り、廊下を曲がって理科室の前へ来ると、以前の“人体模型”を解明した場所とはやや違う空気が漂っているように感じられる。鏡の世界では状況が変化するらしく、同じ理科室にいても時期や条件で様子が変わるのかもしれない。
扉にはかすれた文字で「理科室」と読めるプレートがあるが、左右反転で判別しにくい。レオがドアをそっと押すと、嫌なきしみ音を立てて開く。室内は真っ暗だが、ナオキの懐中電灯がガスバーナーやフラスコを照らしており、棚には色あせた試験管が並んでいる。

「前と同じ場所なのに、雰囲気違う……」
ソウタが小さく呟くと、レオは「ま、これが鏡の世界ってやつだろ」と苦笑する。ナオキは棚の裏を覗き込みながら、すでに何かが変わっている気配を探っている。


4. 声の気配を感じとる

静まり返った室内で、三人が足を踏み入れた瞬間、ほんのかすかだがのようなものが耳に届く気がした。「……けて……」というかすれた音。確信は持てないが、確かに“人の声”に近い。
「聞こえた……よな?」
レオが振り返ると、ソウタもわずかに青ざめた表情で頷く。ナオキは「まさか、本当に声がするとは……」と息を呑み、懐中電灯の光を部屋の隅へ向ける。
だが、そこには何もいない。棚の上には壊れた人体模型の残骸、埃をかぶったビーカーや薬品瓶があるだけだ。まるで気のせいかと思うほど静かなのに、耳を澄ますと微弱な声が遠くから響くようだ。


5. 声の主を探す試み

三人は手分けして室内をくまなく調べ始める。レオは隣の準備室への扉を覗き、ナオキはロッカーや棚の中を確認、ソウタは床下や机の下を懐中電灯で照らす。
「……ないな。誰かが隠れてるわけでもなさそうだ」
レオが肩をすくめたところで、ふと小さな音が聞こえる。先ほどよりややはっきりした「……助けて……」という声が、まるで壁の向こうから聞こえるように感じた。
ソウタは唾を飲み込みながら壁に耳を当てる。「誰か閉じ込められてるのかな?」と身震いする。ナオキは「そんな仕掛けがあるのか?」と懸命に理屈を考えるが、よくわからない。
「とにかく声の位置を特定しよう」
レオが二人を促し、三人で声の方向を探ろうとするが、音は不規則で明確な位置がわからない。その瞬間、寒気のような風が吹き抜け、三人は鳥肌を立てながら顔を見合わせる。


6. 始まりの予感

“声の主を探す”という六つ目の不思議は、これまで以上に漠然とした恐怖をもたらしている。具体的な形が見えず、噂によれば「声の主はかつての理科室にいた亡霊かもしれない」という怪談じみた話も囁かれているからだ。
だが、ソレナトリオはここで諦められない。声の持ち主が本当に助けを求めているとしたら、見逃せないし、何らかの“想い”がまた鏡の世界の不思議を生み出しているのだろう。

Deja una respuesta

Tu dirección de correo electrónico no será publicada. Los campos obligatorios están marcados con *

CAPTCHA


es_ESSpanish