1. 闇の渦の中へ
薄暗い「忘れられた生徒の記憶」が渦巻く教室跡で、ソレナトリオ(レオ、ナオキ、ソウタ)は手を取り合い、迫りくる黒い影の波に立ち向かっていた。
何度も体を押し流されそうになりながらも、三人が連携して互いを支え合うたび、合言葉「それな!」の力が闇をわずかに退ける。ここで立ち止まれば、再び生徒の悲しみが飲み込まれてしまうのは明らかだった。
「まだだ……まだ、終わらせない!」
レオが荒い呼吸をしながら叫び、ナオキは頭の中の理屈を振り払うように、「今は理詰めじゃない。想いを届けるしかない!」と声を上げる。ソウタは涙を浮かべながら「孤独なまま誰にも気づかれないなんて……そんなの、あんまりだよ!」と悲痛な表情をにじませていた。
2. 生徒の思い出が差し込む光
渦巻く闇の中、三人は生徒の記憶の断片を垣間見る。どこかの教室で、一人ぼっちの少年が窓を見つめている姿。友だちに声をかけられず、教師にも気づかれない。運動会や合唱練習など、イベントのシーンが写り込むが、そこにこの生徒の笑顔は見当たらない。
「こんなの……苦しいな」
ソウタはこみ上げる感情を抑えきれず、ナオキとレオも眉をひそめる。誰にも気づかれず、誰も思い出してくれない――それが“忘れられた生徒”の痛みだった。
しかし、彼の記憶はただの悲しみだけでなく、“誰かと笑い合いたかった”“一緒に走りたかった”“声をかけてほしかった”という小さな願いも残している。そこには暖かな光のような切望がほのかに垣間見えるのだ。
3. 三人の行動が呼び覚ますもの
「ならば、俺たちがその声に応えるしかない!」
レオは強く握った拳を突き出し、ナオキも「きっと、その想いを認めてあげることで、闇から解放できるんだ」と頷く。ソウタは涙を拭いながら、「一人じゃないって、伝えなきゃ」と決意を固める。
三人は闇の渦に飲み込まれかけた少年の幻影へ向かい、まるで手を差し伸べるかのように歩み寄る。次第に少年の姿がはっきりと形成され、黒い影はその周囲を猛るように揺れ動く。だが、三人が一歩ずつ近づくたびに影は後退し、少年の姿は少しずつ光を帯びていく。
4. 「それな!」の誓いが闇を砕く
「もう、一人じゃない!」
レオがそう叫ぶと、ナオキとソウタも一緒に声を合わせる。「私たちがここにいるよ……」「気づけなくてごめん。でも、今はもう大丈夫!」
三人が同時に右手を突き出し、最後の力を込めて**「それな!」**と合言葉を叫ぶと、教室全体を覆っていた闇の波がぐらりと揺らぎ、砕け散るように四方へ散っていく。耳をつんざくような風の咆哮が一瞬起こるが、それはあっという間に消えていき、あとには柔らかな光が教室を満たした。
5. 少年の姿と扉
黒い影が完全に退散すると、そこには中学生ほどの制服を着た少年の幻影が立っていた。表情はわからないが、悲しみのオーラは消え、まるで安心したかのように見える。三人に頭を下げるような仕草をすると、少年の姿は徐々に薄れていき、やがて一筋の光へ溶け込んで消えていった。
その瞬間、教室の奥に大きな扉が浮かび上がる。レオは「これは……帰れる扉か?」と期待混じりに声を出し、ナオキは「いや、まだわからない。しかし、ここが最後の試練を乗り越えた先だということは間違いない」と息を整える。ソウタは少年を見送るかのように「ありがとう。もう一人じゃないよ……」と囁いた。
6. 絆が開く扉
三人は疲労困憊のまま、顔を見合わせて小さく笑い合う。ここまで幾多の不思議を解決し、何度も逃げ出しそうになったが、いつでも合言葉が背中を押してくれた。友情と絆で生まれた“それな!”という誓いこそが、鏡の世界の最深部に鎖された闇を砕いた力だった。
「最後の扉……開けようか」
レオが決意を表す。ナオキとソウタは「それな!」と声を合わせ、そっと扉に手を当てる。あの少年が遺した一瞬の光が、三人を包み込むかのように優しく広がっていく。こうして、“忘れられた生徒”の哀しみは解放され、八つ目の不思議の核心へと踏み込むための扉が今、開かれようとしていた。
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