1. 再び降る夜の雨
赤い傘の少女に出会ってからしばらく、鏡の世界では雨が降らず、ソレナトリオ(レオ、ナオキ、ソウタ)は次なる出会いの機会を逃していた。校舎内の探索を進めるうちに休息のタイミングも挟みながら、三人はいつ雨が降っても動けるよう心構えをしていた。
そんなある夜、薄暗い廊下を歩いていると、窓ガラスに再び雨粒が音を立てて打ちつけるのを感じる。先ほどまでは止んでいた雨が突然強く降り始め、まるで彼女が現れる合図のようだった。
「来たか……!」
レオが反応し、ナオキもメガネを押し上げて外の様子をうかがう。ソウタは懐中電灯を手に取り、心を落ち着かせるように深呼吸する。きっと、あの赤い傘がどこかに佇んでいるはず――そう確信していた。
2. 静かに立つ赤い傘の少女
昇降口から校庭へ出ると、やはりそこには赤い傘の少女がいた。前と同じように雨の中で一人きり、傘を差したまま少しうつむいているように見える。その姿はどこか儚げで、心を締めつける寂しさを漂わせていた。
「この前みたいに、また逃げられちゃうかもしれない……」
ソウタが呟きながらも、意を決して少女に近づいていく。レオとナオキは少し後方に構え、懐中電灯を照らしながら様子を見守る。少女が逃げる気配はなく、ただ赤い傘の下で雨音に身をゆだねているようだった。
3. 孤独を抱えた想い
そっと少女のそばに立つと、ソウタは静かに口を開く。
「ずっと、一人でここにいるんだね。……寂しくない?」
少女はわずかに傘を傾けるが、顔は依然として見えない。ソウタは胸を痛めつつ、次の言葉を探す。彼女が求めているものは、きっと“誰かに気づいてもらうこと”なのではないかと感じている。
「俺たち、君と話したいんだ。もし、何か悲しいことや苦しいことがあるなら……教えてほしい。助けになれるかはわからないけど、一人にさせたくないんだ」
4. 溶け出す雨と涙
雨音が少し強くなり、少女の足元に大きな水溜まりが広がる。その瞬間、傘の赤い布から滴るしずくがきらりと光り、まるで涙のように地面へ落ちていく。ソウタは彼女が泣いているのではないか、と強く感じた。
レオとナオキは後ろで見守りながら、胸にこみあげるものを感じていた。天候すら彼女の孤独に寄り添っているかのようだ。
「大丈夫……もう一人じゃないよ」
ソウタがそっと手を差し出すと、少女の肩がかすかに震える。赤い傘がわずかに持ち上がり、雨粒がこぼれ落ちる。その下から、ほんの少しだけ見えた少女の横顔には、確かに一筋の光が落ちているように思えるが、それは雨なのか涙なのか区別がつかない。
5. 傘を手渡す瞬間
やがて少女はおずおずと赤い傘を動かし、ソウタの上に傘を差し出すような仕草を見せた。ソウタは戸惑いつつも、「ありがとう……」と優しく微笑む。すると、少女はそっと手を放し、傘をソウタに持たせる形で一歩後ずさる。
赤い傘はソウタの頭上で雨を受け止め、彼自身はずぶ濡れのままだが、不思議と温かさを感じた。しかし、少女の姿はまたもや闇に溶けるように消えてしまう。レオとナオキが駆け寄るが、もうそこには誰もいない。手の中に残った赤い傘だけが、雨の中で揺れていた。
6. ふと気がつく、雨の止んだ夜
気づけば雨は上がり、闇夜に星が瞬き始めている。校庭の水溜りに写った鏡の世界の空は、鈍い色合いながらも雨雲の切れ目から淡い光を見せていた。赤い傘を抱えたソウタは、「終わった……のかな」と言葉を漏らす。
「たぶん、これでいいんだと思う。きっと彼女は救われた……」
ナオキがメガネを拭きながら言うと、レオも「これが第五の不思議の答え、か」としみじみ頷く。赤い傘の少女は、孤独と悲しみを抱え、夜の雨に溶け込むように現れていたが、最後には三人の呼びかけを受け止め、赤い傘を手渡すことで“想い”を託してくれたのだろう。
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