[Episode 3] Step by Stage! ~ Ich kann nicht glauben, dass ich der Leiter eines Tanzkreises sein werde! ~ ~.

第3話「負けるなリーダー、まずは練習方針!」

迷えるリーダー、再び

このところ、朝起きると必ずスマホのメモ帳を開くのが日課になっている。そこには、私がまとめた“文化祭ステージのやることリスト”がぎっしり詰まっていた。前回の会議でざっくりとは合意したものの、具体的なスケジュールがまだ曖昧なのだ。

「練習回数、週2か3か……どう調整する? バイト組はどうする?」「曲決めの試聴会はいつやる?」「衣装担当は誰がメイン? そもそも衣装費はどう捻出する?」……考え出すとキリがない。

 ベッドで寝起きの頭をぼんやりさせながらも、ふと視線を机に移すと、そこには先日夜更かししながら書いた“練習計画表”の下書きが置いてある。文化祭までの残り2か月半を週ごとに区切って、何をやるかをざっくり書いてみたのだが……「こんなにうまく進むわけないよね」と自嘲気味に笑ってしまう。

 それでも、リカ先輩から「いきなり完璧を目指さずに、とりあえず形にしよう」とアドバイスされたので、私は小さな一歩を踏み出そうとしていた。今日のサークル練習で、まずはメンバーに“仮の練習計画表”を見せてみるつもりだ。
「みんな納得してくれるといいんだけど……」
 そう呟きながら布団を出て、私は朝食を済ませ、大学へ向かう身支度を始める。苦労は絶えないけれど、心はどこかワクワクしていた。

試聴会のはずが…

昼下がり。私たちは学内の空き教室を借りて集まっていた。今日は“曲候補の試聴会”をやることになっていたのだが、はじまって早々、想定外の混乱が。

「えっ、CDが読み取れない……?」
 サークルメンバーの一人が持ってきた音源を再生しようとしたら、どうやら教室の備え付けプレーヤーが古く、うまく読み込めないらしい。さらに、翔がノートパソコンを持ってきてくれたものの、Wi-Fiの調子が悪くてストリーミングできない。
「マジかよ~。せっかく用意してきたのに」
 翔は頭をかきながら嘆いている。隣では真琴が「じゃあスマホで聴けばいいじゃん!」と声をあげるが、シズクが「スピーカーにつなげないと音が小さいでしょ」と現実的なツッコミを入れる。真由は真由で「どうせなら、音質ちゃんと聴きたいよね。雑にスマホで流したらイメージわかない……」と不満げ。

 私の手元には、CDとスマホが転がっている。大音量で流すには機材が足りない。焦る私に気づいたのか、リカ先輩がぽんっと声をかけてきた。
「ごめん、実は学生会館にスピーカー置いてたんだけど、他のサークルが使うらしくてさ。多分、ちょっと待てば借りられると思うよ」
「そ、そうなんですね。じゃあ、今日は無理せず後日仕切り直しでもいいかも……」
 みんなの都合を考えると、ここで無理をしてもバタバタするだけかもしれない。私がそう提案すると、真琴や翔も「そっか、じゃあ後日やりましょ~」とあっさり同意。こだわりの強そうなシズクや真由も、機材不備なら仕方ないと渋々納得してくれた。

 こうして、今日の試聴会はキャンセル。代わりに練習方針の話し合いに移ることにしたのだけど――。

練習計画、全員の反応

キャンセルになった教室をそのまま使い、テーブルと椅子を円状に配置してのミーティングタイム。私は持参した“仮の練習計画表”を、みんなに配った。
「はい、これが私なりに考えた計画表です。あくまで仮なので、意見をもらいながら修正したいと思います」
 ドキドキしながら紙を渡すと、各々が目を通して「ふむふむ……」とか「おお、意外と細かい」といった反応をする。

 主なポイントはこんな感じだ。

  1. 全体練習は週2回(平日の夕方+週末どちらか)を基本とする。
  2. そのうち週1回はフォーメーション中心の集中練習。
  3. 残りの時間は基礎練習と振り付けのすり合わせに充てる。
  4. 自主練用にサークル室を確保できる日を別途調整する。

 これに対して、さっそく意見が飛ぶ。
「フォーメーションだけの日ってのはアリだと思う。メドレーやるなら、めちゃくちゃ立ち位置変わるもんね」
 真琴が肯定的に頷いたが、シズクが口を挟む。
「でも、基礎練習が週1日だけって足りる? 私たちはまだいいとして、初心者組もいるのよ。ダンス経験が浅いメンバーが焦ってるって声も聞いたけど」
「初心者組には、まずは自主練で基礎をやってもらうしかないかな……。ただ、私たちも教えてあげないといけないし……」
 私は口ごもってしまう。確かに初心者向け指導の時間が足りなくなると、全体の完成度にも影響しそうだ。かといって限られた時間の中ですべてをこなすのは至難の業。

 そこで真由が、珍しく前のめりに発言した。
「じゃあアタシが初心者組を集めて振りコピーのコツとか教えてあげようか? 一応、振り付け考えるの得意だし、昔スタジオ通ってたし」
「えっ、本当? 真由、そこまでやってくれるの?」
 思わず私が驚くと、真由は得意げに胸を張る。
「こう見えて、教えるのは嫌いじゃないんだよ。衣装を考える時間も必要だけど、初心者をサポートしておけば、本番のフォーメーションがスッキリ決まるでしょ?」
 なるほど。私としてはありがたい提案だ。するとシズクも「じゃあ私も基礎ステップのレクチャーに協力するわ。人数が多いと教えられる人が足りないかもしれないし」と意外なほど前向き。
「おお、いいね。心強いよ!」
 真琴は喜んで拍手し、翔は「じゃあ俺は盛り上げ役で……」と相変わらずの適当発言。「ええい、あんたはもっと役に立つことしなさいよ!」と真琴にドツかれながらケラケラ笑っている。

 こうして見てみると、みんなの“得意分野”が徐々に見えてきた気がする。真由とシズクは教え上手、真琴は勢いでチームを盛り上げ、翔は……ま、コミュ力担当? 要は悪ノリさせなければ便利に動いてくれるはず。
「じゃあ、基礎練習は真由とシズクが担当してくれる方向で、と。初心者組が自主練する時も、二人が来れる日はアドバイスをお願いね。あと、私も可能な限りフォローするから」
 私がメモを取りながらまとめていると、真琴が手を挙げた。
「それで、本題のフォーメーションはどう決める? メドレーかどうかでまた変わってくるしさ」
「うっ……」
 そこに戻るか。メドレー問題はまだ確定していない上に、試聴会が延期になったせいで曲自体も決まっていない。
「うーん、曲が確定するまでは大枠しか決められないよね……とりあえず、サビっぽいところでセンターが交代するようにするか、とか、見せ場を複数作るか、っていう方針だけでも話しておく?」
「おおー、なんかそれっぽい。いいじゃんいいじゃん!」
 真琴が勢いよくうなずいていると、シズクはクールに「まずは曲が決まってから細部を詰めるべきだけど、イメージを共有するのは悪くないわね」と続く。
 私はホッと胸を撫で下ろす。メンバーが建設的に意見を交わしてくれると、こんなに話がスムーズに進むんだ……と、ちょっと嬉しくなる。

小さな前進

 その後も30分ほど話し合いを進めてみた結果、“当面の練習方針”としてはこんな形にまとまった。

  1. 全体練習:週2回(平日夕方+土曜または日曜のどちらか)
    • うち1回を「フォーメーション中心の日」とし、メドレーかどうかにかかわらず大枠の立ち位置を確認。
    • もう1回は基礎練習&振り付けを兼ねる。曲が決まったらサビ部分の振りを集中で詰める。
  2. 自主練・初心者サポート
    • 真由とシズクがメインで教える。小春も余裕があれば参加。
    • 連絡はLINEグループで逐一共有し、参加できる人が集まってやる形式。
  3. 曲決定&振り付け案
    • 機材が使えるタイミングで再度試聴会を開く。複数曲メドレー案を前提に準備はしておくが、難しそうなら1~2曲にシフト。
    • 振り付け案は真由とシズクだけでなく、全員の意見を聞く。

 決して完璧ではないし、まだまだ不確定要素が多い。でも、ゼロからすると大きな進歩に思えた。少なくとも、みんなが同じ方向を向き始めているのは感じられる。

「よし、今日はこんなところかな。あとは実際に体動かそっか!」
 真琴が声を張り上げると、他のメンバーも一斉に席を立った。まだ教室の使用時間が残っているので、簡単なストレッチやステップ練習をしようという話になったのだ。
「そういえば、最近ぜんぜん体動かしてなかったかも。ヤバい、筋肉落ちてるかも?」
 真由が笑いながら腰をひねり、シズクは「ちゃんとアップしないと怪我するよ」と冷静な口調で返す。そんな二人のやりとりに、真琴と翔がちゃちゃを入れては大笑い。私はその光景を見ながら、自然と頬が緩んでいた。

笑いとアクシデントと

 各自が思い思いにストレッチを始める。大した広さではない教室だけど、机を隅に寄せればちょっと動くくらいはできる。

「今から軽くダウンステップを合わせるから、初心者組の人は見よう見まねでいいからねー」
 真由がそんなふうに声をかけ、前に立ってみせる。腕を曲げながらリズムをとり、足を上下に踏む基礎的な動きだ。シズクも隣に並んで「ここでしっかり膝を使うとカッコよくなる」と実演。
「ほら翔、リズムずれてるよ!」
「うお、まじか……? なんか合わねえ」
 翔が苦笑いしながら合わせようと頑張っていると、真琴が「おりゃー!」と勢いよくジャンプステップを混ぜ出す。
「え、なんでそこでジャンプ?」
 シズクが驚いて問いかけると、真琴は「なんか燃えてきたから!」と豪快に笑う。そういうノリが真琴らしくて、周囲を笑わせてくれる。
 でも、ジャンプに集中しすぎたのか、真琴が着地に失敗してぐらりと体勢を崩した。
「わわっ……! あぶな!」
 危うく転倒しかけたが、翔が間一髪支えてセーフ。教室の空気が一気に「おおーっ」と湧く。
「な、何やってんのよ、もう……!」
 バツが悪そうに顔を赤らめる真琴に、翔が「いえいえ、姫をお支えするのは当然ですよ~」と茶化す。
「誰が姫だっての!」
 真琴がツッコミを入れ、またしてもみんなで笑う。こうして、ぎこちないながらも活気のある時間が過ぎていく。

ちいさな自信

ストレッチと基礎ステップ練習が一通り終わると、あっという間に教室の利用時間ギリギリになった。片づけをしながら、私は心の底で少しだけ達成感を感じていた。
「今日は試聴会が中止になったのに、結果的には良い時間になったかも。みんな前向きに動いてくれてるし……」
 まだまだ問題は山積みだ。でも、こうして体を動かしているうちに、不安がワクワクに変わっていくのを実感する。何より、メンバー同士が少しずつ役割分担や得意分野を認め合っているのが大きい。

 リカ先輩が書類を手にして教室の隅から出てきた。どうやらサークルの管理書類を整理していたらしい。
「みんなお疲れ~。お、楽しそうだね」
「リカ先輩。今日は試聴会できなくてすみません……」
 私が頭を下げると、先輩は「いいんだよ、そんなの」と笑いながら肩をすくめる。
「うまくいかないことがあっても、代わりに何かできることをやっておけばいいの。小春、リーダーぽくなってきたじゃん?」
「そ、そうですかね……?」
「うん。今日の小春を見てたら、ちゃんとみんなを回してたよ。それに、メンバー同士でフォローしあう雰囲気も出てきてる。これは大きいよ」

 リカ先輩に言われて改めて気づく。真由とシズクが初心者サポートを買って出てくれて、真琴と翔がいい意味でムードメーカーを担ってくれる……確かに、私一人が頑張っているわけじゃない。みんながそれぞれやることを見つけ始めているのだ。
「この感じ、悪くない……! あとは曲が決まれば、もっと勢いがつくかも」
 そう考えると、次に控える試聴会や具体的な振り付け作りが楽しみになってきた。

ささやかながらの打ち合わせ

教室を出てロビーで解散する前に、私はみんなに声をかけた。
「機材が使える日を調整して、できれば今週末か来週あたりに試聴会をやりたいと思うんだけど。みんな予定どうかな?」
「おれは土曜夕方ならバイト休み取れるよ」
 翔がスマホのカレンダーを開きながら言う。真琴は「土曜なら午前のバイト終わりで駆けつけられるかも」と頷く。シズクは「私は大丈夫」と相変わらず短い返事。真由は「友達との約束があるけど時間ずらせばなんとかなるかな?」と悩んでいる。
「よかった、みんな何とか合わせられそう。じゃあ土曜の夕方を第一候補にして、またLINEグループで細かい時間決めましょう」
「了解ー!」
「オッケー。楽しみにしてるわ」

 こうして次なるステップへ向け、私たちは動き出す。今度こそ曲を決めて、ステージのコンセプトを固めたいところだ。メンバーたちも、まだ戸惑いはありつつも前向きに頑張ろうとしてくれている。その姿に胸が熱くなる。

帰り道の決意

 解散後、私はしばらくキャンパス内を歩き回ってから帰途についた。日差しが少しずつ秋めいてきたのを感じる。そうだ、秋といえば文化祭。あと2か月ちょっとで本番を迎えるんだ……考えるだけで緊張と興奮が交じり合う。

 ふと、私の頭に浮かんだのは、ダンスを始めたきっかけ。高校時代に見たダンス部のキラキラしたステージに衝撃を受け、「私も踊ってみたい!」と思ったのが最初だった。それから、大学生になってサークルに入って、いろいろな人との出会いがあった。
 あの頃の純粋な感動を、今度は自分が文化祭ステージで再現したい。そう思うと、自然と足取りが軽くなる。
「もっと頑張ろう……! まだまだやることいっぱいあるけど、きっとみんなとなら乗り越えられるはず」

 小さくガッツポーズをして、私はいつもより一駅分多く歩いてみた。夜風にあたると、なんだか心が落ち着いて、明日も前を向いて歩いていける気がする。

Epilog

 こうして、私たちは曲決めの最終段階に向けて少しずつ動き出す。試聴会の準備、練習方針の細かい修正、初心者指導の段取り――一つひとつは地味で手間がかかる。でも、その先にはみんなで最高のステージを作るという夢が待っているんだ。

 少し前の私は「リーダーなんて無理!」と縮こまっていた。でも、今は思う。「たとえ無理でも、一歩ずつやってみれば何とかなるかもしれない」って。

 仲間たちの頼もしさを感じながら、私は再びスマホのメモ帳を開く。そこには、新しく更新された“練習方針”と“今後のタスク”が並んでいた。帰宅後にもう一度、パソコンで整理しよう。リカ先輩の言う通り、完璧じゃなくても前に進むことが大事だ。

 まだまだ道のりは長いし、きっと衝突も問題も山ほど出てくる。でも今の私は、少しだけ胸を張れる気がする。
「よし……明日もがんばろう!」
 夜空に向かってそうつぶやくと、心の奥から小さなパワーが湧き上がってきた。

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