1. 焦りの中で立ち止まる
何度も上り下りしても、同じような踊り場に戻ってしまう“終わらない階段”。鏡の世界ならではの歪んだ構造に、レオ、ナオキ、ソウタの三人は疲労と焦りを募らせていた。
「上へ行っても下へ行っても、同じ場所かもしれない……」
ソウタが擦れた声でつぶやくと、レオは苛立ちを押し殺しながら足元を見つめる。ナオキは何とか理屈を立てようと懸命に考えているが、糸口は見当たらない。
「いったん落ち着こうぜ」
レオが促し、三人は踊り場の片隅に腰を下ろす。鏡の世界のひんやりした空気と、埃の漂う薄暗い光が、精神的な圧迫感を増幅する。だが、まずは無駄に動いて体力を消耗するより、情報と考えを整理しなければならない。
2. ナオキの頭の中の「空間パズル」
いつもなら、事象を見て仮説→検証→結論の流れを組み立てるのが得意なナオキだが、鏡の世界の終わらない階段は、まるで空間そのものがループしているように思える。現実の幾何学や物理の常識だけでは説明しきれない不条理を目前にして、頭を抱えるしかなかった。
「……よくあるトリックだと、“円環状に繋がってる”とか“異次元的に繋がってる”とかが考えられるけど、ここはどうなんだろう。構造が歪んでるのか、僕らの視覚を惑わせる何かがあるのか……」
ナオキは懐中電灯を指先で回しながら、思考の糸を手繰り寄せる。ソウタは難しそうな顔をして、「つまり、ここには普通じゃない“空間のねじれ”があるってこと?」と整理しようとする。
3. レオの直感と決断
考え込むナオキに対し、レオは普段から直感と勢いで行動するタイプ。今も「考えてばかりでも解決しないだろ」と苛立ち混じりに動きたがっているように見えるが、先ほどの無駄な上り下りで体力を浪費したのを反省しているのか、少し自制がきいている。
「なあナオキ、何かアイデアはないのか? 俺たち、ずっとここをグルグルしても埒が明かないだろ」
「……わかってる。でも、今は推理を組み立てるしかない。見えないところに扉があるとか、階段そのものを“ずらす”とか……考えられるのは、空間的な仕掛けだな」
レオは歯痒そうに視線を床に落とす。そんな中、ソウタがふと踊り場の壁を見上げて、「ここ、いつも同じ壁かどうか確認できないかな……?」と提案する。落書きの形状や削れ方が微妙に違っていれば、“同じ場所に戻っている”のではなく、“類似した別の場所”を回っている可能性もあるという発想だ。
4. 具体的なチェック方法
ナオキはソウタのアイデアに乗り、「よし、前にも試したけど、もう少し細かい印をつけてみよう」と提案する。チョークや小さなシール代わりの紙片を使って、壁や床に複数のマーキングをし、同じ場所にいるのか、別の場所を巡っているのかをしっかり区別する作戦だ。
「さっきは大まかなマークしかつけてなかったからな。もっと細かくやろう」
レオも「それだ!」と前のめりになる。ソウタは紙片をビリビリに破って、「場所ごとに違う形とか文字を書いてみる?」と張り切りだした。確かに、少し手間はかかるが、数字やアルファベットを振るなどすれば場所の判別を高精度で確認できる。
5. 小さな進展
三人はさっそく作業を始める。踊り場や階段の隙間に紙を挟んだり、チョークで壁に印を描いたりしながら、ゆっくりと階段を上っていく。同じような踊り場に出るたび、マーキングをチェックするわけだ。
すると、意外なことに気づく。複数の踊り場のマークが、確かに微妙に異なっているのだ。同じ“落書き風”に見えた場所も、マーキングの場所や形がまったく同じではない。
「ってことは……全部同じ踊り場じゃないのかもしれない」
ソウタが興奮まじりに言うと、ナオキも目を輝かせる。「そうだ。どうやら、そっくりな踊り場が複数あるんだ。階段は“何度登っても元の場所に戻る”わけじゃなく、“そっくりな構造の踊り場が延々並んでいる”可能性が高い」
6. 最後の一押しへ
「じゃあ、“終わらない階段”ってのは、ずっと同じ場所を回ってるんじゃなくて、上へ行っても下へ行っても同じような場所が連続してるってことか……」
レオが唸るように納得しつつ、ナオキは頭を抱えたまま「こりゃ大変だな……」と苦笑する。ソウタは心底ほっとしたように、「同じ場所に閉じ込められてるんじゃないなら、道さえ分かれば抜けられるかも……」と一筋の光を見いだす。
いずれにせよ、この“終わらない階段”の仕組みがわかっただけでも大きな進歩だ。ひょっとすると、何か決定的な行動をすれば、次の踊り場へ進むことをやめ、通常の校舎構造へ合流できるのかもしれない。
「あと少しで抜け道がわかりそうだな。俺たちならやれる!」
レオは確信めいた笑みを浮かべ、ナオキとソウタも「それな!」と声を重ねる。まだ不安は大きいが、少なくとも闇雲に動き回る段階は脱した。彼らの次なる一手が、このループを断ち切る鍵になるだろう。
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