1. 新たな舞台は階段の迷路
夜の音楽室、理科室の人体模型、図書室の消える本──三つの不思議を乗り越えたソレナトリオ(レオ、ナオキ、ソウタ)は、次なる七不思議として「終わらない階段」へ挑むことにした。鏡の世界では、現実の校舎と同じような構造が存在しながら、その内部はしばしば歪んでいる。階段を何度上がっても元の場所に戻ってしまうという噂は、一見しただけでは信じ難いが、鏡の世界ならあり得る話だ。
「終わらない階段って、どういう仕組みだろうな……?」
ナオキが懐中電灯を握りしめながら考え込む。以前の自分なら「あり得ない」と切り捨てていたはずだが、今や鏡の世界では常識が通用しないことを痛感している。レオは「先に行って確かめるしかないだろ」と鼻息荒く答え、ソウタは「もうイヤだよ……怖いよ……」と弱気になりながらも、ついて行くしかないと思っていた。
2. いつもと違う階段の様子
三人が校舎中央の大きな階段へ向かうと、鏡の世界ではそこも薄暗く、踊り場にはかつて鏡があった形跡が残っている。だが、今は鏡の姿は見えない。踊り場の壁には先ほどの音楽室や図書室とはまた違う雰囲気の落書きや亀裂が走っており、きしむ音が不穏なリズムを刻む。
「ここを上がっていくと、“元の場所に戻る”って噂なんだよな」
レオが苦笑まじりに言うと、ナオキは思わず肩をすくめた。
「試してみなきゃわからないけど……気をつけよう。足元が歪んでる可能性もある」
ソウタは階段を見上げながら、一度大きく息を飲む。階段の上は闇が続いているように見えるが、どこかで踊り場を挟みつつ、上階に繋がっているはずだ。「それな……」と力なく口をそろえ、三人は踏み出す覚悟を決める。
3. 登っても登っても、同じ踊り場
意を決して階段を上り始めると、きしむ音が段々に重なり、三人の心拍が早まっていく。途中、古びた貼り紙の破片や埃の堆積が増え、どうやら長らく人が通っていないとわかるが、それでも階段は果てしなく続いている印象を与える。
「ここ……踊り場が出てきたよ」
ソウタが怖々振り返る。見ると、そこは最初の踊り場とよく似た空間だが、少しだけ落書きが違う気がする。レオが踊り場の壁に手を当て、「これ、さっきの場所じゃないよな?」と確認するが、ナオキは微妙に同じように見えると首をかしげる。
再び階段を上ると、また同じような踊り場が出現する。落書きが似ているのか、それとも同じ場所に戻ってきているのか、三人には判別が難しい。
「まさか、これが“終わらない階段”……?」
ソウタは血の気が引いた声を出し、レオは汗ばんだ手をズボンで拭う。どれだけ登っても、同じ踊り場にたどり着くように感じられる──確かに噂どおりだ。
4. 焦りと不安が生む迷走
何度か往復するうち、三人は疲れと不安が募り始めた。レオが「くそ、どうなってんだ」と苛立ちを見せ、ナオキはひたすら理屈を考えようとするが、有力な答えは浮かばない。ソウタは暗がりに目を凝らしながら、「ここから出られなくなるんじゃ……」と震えを隠せない。
「とりあえず冷静になろう。鏡の世界だし、構造が歪んでるのかもしれない」
ナオキが懸命に頭を回転させ、「出口の目印をつけながら進めば、同じ場所に戻っているかどうかわかるだろ?」と提案する。レオも「それだ!」と頷き、踊り場の壁にチョークで印をつけることにした。
しかし、再び階段を上り続けると、まったく同じような踊り場が現れ、そこには同じ印がかすかに残っているのだ。形が少し歪んでいるようにも見えるが、見間違いかもしれない。焦りがますます三人の呼吸を荒くさせる。
5. 視点を変える必要性
「どうすれば抜け出せるんだ……?」
レオが苛立ちまじりに叫ぶと、ナオキは「感情的になっても仕方ない」と言いそうになったが、ここは鏡の世界。理屈よりも“何か別の発想”が必要かもしれないと踏みとどまる。
ソウタは「もしかして、上に行くだけじゃなく、下るとか……?」と遠慮がちに提案する。確かに、階段をひたすら上る方向にしか意識がなかったが、“終わらない”というなら、反対方向にも道があるのかもしれない。
「逆方向に行くの……怖いな。でも、このままじゃ先に進めないから、やってみるか」
レオが決断し、ソウタとナオキは同意する形で階段を下る方向へ足を向ける。すると、長いようで短いような段数を経て、また同じような踊り場へ到着するというループが生じた。
「上っても下っても、同じかよ……!」
レオは拳を握りしめて歯噛みするが、ナオキは息を整え、「焦るな、何か手があるはずだ」と言葉をかける。
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