第三章②:ソウタの優しさが鍵

1. 忘れられた本の山

「本が消える理由は、誰かに読まれずに忘れ去られたからかもしれない」──そんな仮説を得たソレナトリオ(レオ、ナオキ、ソウタ)は、鏡の世界の図書室でさらに詳しい状況を調べることにした。
大量の埃が積もった本棚を隈なく探してみると、まったく読まれた形跡がないと思われる古い童話や、難解そうな学術書だけが棚ごとそっくり消えている痕跡が残っていた。ソウタは青ざめながら、床に散乱した数冊の破れた本を手に取る。
「これ……すごく綺麗な装丁なのに、ページがほとんど破かれてる。誰にも読まれなかったのかなぁ」
彼は悲しそうに呟きながら、乱雑に破られたページをそっと重ね合わせる。


2. ソウタの思い出

図書室を見渡すうち、ソウタは自分自身の小学生時代の記憶を思い出していた。家族が多忙で、放課後はよく学校の図書室にこもって本を読んでいたのだ。静かで落ち着く空間に、物語の世界が広がっていて、そこで過ごす時間は彼にとって救いでもあった。
「……本が、消えちゃうなんてかわいそうだね」
ソウタがつぶやくと、レオは「なんか切ないな」と同意し、ナオキは無言のまま埃を払いつつ、消えた本たちの残骸を懐中電灯で照らしていた。確かに、この鏡の世界で“読まれずに忘れられた本”が自ら消えてしまうのだとすれば、それは本に宿るなんらかの“想い”なのかもしれない。


3. ナオキの理屈と、ソウタの気持ち

「でも、そんなの理屈じゃあり得ないだろ。モノが自分から消えるなんて……」
ナオキが頭を振る。理科室で人体模型が動いたときとは違って、こちらは「完全に消失」しているのだ。仕掛けや動力がない限り、本が勝手に移動するわけではない──そう思いたいのが彼の本音だ。
しかし、鏡の世界で経験してきたことを振り返ると、何かしら“意思”のようなものが作用している可能性を否定できない。ナオキはもどかしそうに声を落とした。
「もしかしたら……本が本当に、自分で消えたのかもな。誰にも読まれずに、忘れられて……」
その言葉に、ソウタは切なげな表情を浮かべる。自分が子どもの頃に感じた孤独と重なるようで、胸がしめつけられた。


4. 図書カードに書かれた名前

三人がさらに捜索を続けると、カウンター付近にある引き出しを開けた際、昔の図書カードが大量に残されているのを発見する。本の貸し出し記録らしく、そこに書かれた名前や日付は、左右反転で読みにくいが、ナオキが何とか解析を試みる。
「うーん、これ……何年も前の記録だな。ほとんど借りられた形跡がない本がリストアップされてる」
ソウタはカードを見ながら、「誰にも借りられないまま、棚にあったってことか……」と胸を痛めた。レオはカードの中に気になるタイトルを見つける。「童話集“たからものの森”って本、ここに書かれてるけど、今はないよな。消えた本の一つかも」


5. 本を救い出す方法は?

貸し出し記録を調べていくうちに、「たからものの森」を含む複数の本が、数年前を最後に誰にも借りられていないことがわかった。加えて鏡の世界では、それらの本が棚ごと消えている可能性が高い。
「どこへ行っちゃったんだろうね……? 本が自分から消えるなんて、本当にあるのかな」
ソウタが再び不安そうに言うと、ナオキも頭を抱えるが、レオは思案顔で口を開く。
「読んでほしかったのかもな、本たちは。誰も読んでくれないなら、この世界から消えるしかなかった……みたいな?」
言っていて、絵空事のようにも思えるが、鏡の世界で起こる事象を考えれば、そのくらい“本の想い”を認めるしか筋が通らない気がした。


6. ソウタの優しさと、次なる一歩

しばらく黙っていたソウタが、不意に顔を上げる。
「もし、本が自分で消えるんだとしたら……誰かが読んであげれば、救えるかもしれないよね」
小さな声だったが、その響きはレオとナオキの胸に強く残った。誰にも読まれず忘れ去られた本だから消えてしまう──ならば、ちゃんと読んで、必要としてくれる存在がいることを示してあげればいいかもしれない。
「お前……優しいな」
レオが照れたように笑うと、ソウタは「だって、そんなに悲しい話、見過ごせないよ」とうつむいた。ナオキは無言のままメガネを押し上げるが、その眼差しはどこか納得したように柔らかくなっている。
こうして三人は、“消えた本”たちを探し出して読んであげるという、ある種無謀な作戦を思いつく。あるいは、それが鏡の世界の図書室で起きる怪異を解決する鍵になるのかもしれない──ソウタの優しさが紡いだ一つの糸口だ。

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