1. 理屈と恐怖の狭間で
理科室に佇む白い人体模型が、まるで首を傾げてこちらを見ているかのように見えた。レオ、ソウタと共に、ナオキも息を詰まらせている。いつもの理屈好きな姿はどこへやら、不気味な鏡の世界では「科学的に説明できる」と安易に断定できず、内心では大きな葛藤を抱えていた。
「まさか本当に動くなんて……信じられない。いや、動いてる証拠は見てないけど……でも……」
ナオキは言葉を探しながら、模型をにらむように見つめる。床には奇妙な配線やメモが散らばり、あたかも誰かが「模型を動かす仕掛け」を作っていた形跡がある。純粋に機械的な仕組みで動いているなら、理屈で解き明かせるはず――そう考える一方、ナオキは鏡の世界で起こる不可解な現象に、すでに戸惑いを隠せなかった。
2. 骨格の仕組みと配線
「この配線、やっぱりロボットみたいに改造しようとした痕跡なのかも……」
ソウタが懐中電灯を向けながら、本来は人体模型にはないはずの配線が模型の関節付近に絡まっているのを指摘する。レオは胸の部分を見ながら、「ここ、ネジ穴みたいなのがある」と顔をしかめる。どこかが外されているのか、心臓の位置あたりには小さな穴が空いていた。
「これが動く仕掛けなら、電源やバッテリーが必要だよね。見当たらないけど……」
ナオキがつぶやくと、ソウタはビクビクしながら室内の棚を探りはじめる。埃まみれのビーカーや薬品の瓶、壊れたメスシリンダーなどが散乱するだけで、肝心の“動力”らしきものは発見できない。
「そう簡単には見つからないか……」
レオは床に腰をおろし、配線の切れ端を拾い上げて真剣な表情を見せる。
3. ナオキの過去と学んだ知識
不気味な静けさに耐えきれなくなったのか、ソウタがふとナオキに声をかける。
「そういえば、ナオキって小さい頃から科学番組とか好きで、いろいろ知ってるんだよね?」
「まあ、好きだったな。母さんが理系の仕事してて、家には理科の本がたくさんあったし……」
ナオキは少し照れくさそうに語る。幼少期から物理や生物の本に触れていた彼は、学校の理科で扱う知識だけでは飽き足らず、大学レベルの本も覗いていたという。だが、それは「純粋な興味」というより、周りより秀でていたい思いがあったのかもしれない。
「でも、鏡の世界なんて理屈が通用するかどうか……正直、自信ないんだ」
珍しく弱音を吐くナオキに、レオとソウタは目を丸くする。いつもは理屈をこねて周囲を呆れさせるタイプだが、ここでの体験は彼を苦しめているようだった。
「いや、ナオキだからこそ、わかることがあるんだろ? 俺たちはバカ正直に突っ込むだけだけどさ」
レオは笑いながら肩をすくめ、ソウタも「頼りにしてるよ」と小さく微笑んだ。
4. 模型が動くための“条件”
三人が協力して室内を探ると、人体模型の周囲には細い管やらネジやらが散在している。それだけでなく、壁には半ば消えかけのチョーク文字が走り書きされていた。鏡文字を解読しようとナオキが目を凝らすと、どうやら何かの方程式や実験結果のメモらしき形跡が残っている。
「……『動力源を与えること』『夜間に限る』『心臓部の制御』……と書いてあるみたいだな」
ナオキが要約すると、ソウタは「夜に限るって何で?」と首をかしげる。レオも肩をすくめ、「もしかして、鏡の世界だから夜といっても何か特殊な条件があるのかも」と考えを巡らせる。
「動力源……電池とかケーブルで電気を供給するわけじゃないのかな」
ナオキは人体模型の胸の穴を見つめながら思案する。そこに何をはめ込めば動くのか。確かに物理的な仕組みだけではなさそうだ。鏡の世界特有の“不思議な力”が関与しているのかもしれないと考えざるを得なかった。
5. 急な変化――模型が動き出す?
話し合いを続けているうちに、ふとレオが首をかしげて「なあ、さっきの位置と微妙に違うような……」と模型を指差す。ソウタは「うそ、まじで?」と青ざめ、ナオキもメガネを押し上げて模型の位置を照らし出した。
確かに、先ほどは模型が右腕を少し前に出す形で立っていた気がするが、いま見ると腕の角度がほんの少し違う。だが、明確な動作を見たわけではない。三人は背中に寒気を感じつつも、どうすれば模型が本格的に動くのかを探ろうと、意を決する。
「もしかして……ここに何かをはめ込めばいいんじゃないか?」
レオが胸の穴を指し、ナオキはノートに描かれたスケッチと照らし合わせる。そこには丸い物体が描かれており、“Core(核心)”と英語混じりで書かれていたのがうっすら読めた。
「Core……コアか。それをはめれば模型が動く? でも、そのコアはどこにあるんだ?」
ソウタは眉間にしわを寄せ、「こんな埃だらけの理科室に落ちてるのかな……」と呟く。
6. 次へのステップ――動力源を求めて
実験器具の棚や準備室の隅、薬品庫を調べても、“コア”らしき物体は見つからない。鏡の世界での理科室探索は、想像以上に骨が折れる。ナオキは悔しそうに唇を噛みながらも、頭の中で可能性を組み立てる。
「つまり、第二の不思議“動き出す人体模型”のカギは、このコア……動力源を見つけて、実際に模型を動かしてみることなのかもしれない」
彼は自分で言っていてゾッとするような提案だが、仕組みがわからない以上、動かしてみなければ本当の謎は解けないだろう。レオは「だったら探すしかないだろ!」と即答し、ソウタは苦怖混じりの表情で「それな……」と呟く。
こうして、三人は“人体模型を動かすためのコア”を求め、さらに鏡の世界を探索する決意を固めた。怖さと不安が消えたわけではない。むしろ増している。だが、七不思議を解明しなければ戻れない――それが何よりの原動力となっているのだ。
かくして、ソレナトリオは“第二の不思議”を解明するために、一歩を踏み出す。模型は本当に夜な夜な動くのか? 動かす仕組みは誰が作ったのか? そして、この鏡の世界に潜む“何か”の存在が、再び三人を翻弄することになる――
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