Episode 6: "Ein zweites Eindringen und ein schwankender Kapitän" - "Schwankend zwischen den Wellen, der Mut dieses Tages".

――深夜の学校での倉庫捜索。

怪しい足音こそあれど、有力な手がかりは見つからないまま日々が過ぎる。

サーフボード盗難事件が長引くにつれ、サーフィン部の雰囲気は落ち込む一方だ。

 

そんな中、顧問の黒川修二(くろかわ・しゅうじ)先生がかつて天才サーファーと呼ばれながら、

高校時代の大怪我を機に競技を断念していた――

その情報が、生徒会長・桐生瑞貴(きりゅう・みずき)の調査によって明るみに出た。

 

キャプテン・篠田晃(しのだ・あきら)先輩の足の怪我と、

黒川先生が抱える過去のトラウマ。

両者が密接に結びついているとすれば、この事件の真相に大きく関わるかもしれない。

 

俺、相沢航平(あいざわ・こうへい)は、友人の大谷知樹(おおたに・ともき)、

そしてマネージャーの橘ひなた(たちばな・ひなた)とともに、

消えたボードの謎を解き明かそうと再び動き出す。

 

だが、またしても“夜の校舎で不審者らしき影を見かけた”という噂が流れ始め、

部員たちの不安は一層増していくのだった――。

 

 

◇◇◇

 

1. 校内に流れる噂

 

「また夜に校舎裏で音がしたらしいよ!」

 

週明けの朝。

クラスメイトたちがこぞって囁き合う話題は、やはりサーフボード盗難事件にまつわる不可解な出来事だった。

 

「前に相沢と大谷が夜に倉庫を調べたって話、聞いたぞ。

 マジで幽霊でもいるんじゃね?」

 

と興味半分で声をかけられ、俺たちは苦笑いするしかない。

そもそも倉庫探索は極秘だったはずだが、どこから漏れたのか、

半ば都市伝説のように拡散している。

 

「幽霊より犯人のほうが怖いだろ……」

 

大谷が溜め息をつく。

確かに“夜に物音がした”なんて噂は、ここ最近は珍しくない。

誰かが忍び込んで何をしているのかは不明だが、もしそれがボード盗難の犯人だとしたら?

校内の関係者しか入れない場所に、こっそり出入りしている可能性もある。

 

「考えすぎかもしれないけど、校舎裏の倉庫以外にも、

 まだ知らない場所があるのかもな」

 

「もっとちゃんと顧問の先生に相談したいけど……先生も立場が複雑だし」

 

大谷と俺がぼやいていると、ちょうど廊下の向こうからひなたが走ってきた。

 

「おはよう、二人とも! 聞いた? 昨日の夜、警備員さんが職員室に入る人影を見かけたって!」

 

「警備員……? ここって公立だけど、夜間に巡回してる人はいるよな。

 職員室? 倉庫じゃなくて?」

 

大谷が首をかしげる。

ひなたは小さく息を整えながら続けた。

 

「うん、でも確かに昨日は職員室に入ろうとする誰かがいたみたい。

 鍵を閉めたあとなのに! 慌てて逃げたらしいよ」

 

「もしかして、その鍵を探してボードをどうにかしようと……?」

 

俺の頭には、物置の鍵が保管されている職員室のイメージが浮かぶ。

あの鍵を使えばボードが出し入れできる。
もし犯人が夜間に職員室で鍵を探していたとしたら?

 

(やっぱり部内もしくは関係者による犯行なのか……)

 

「だが、先生自身が夜中に職員室へ戻ることも可能だろ?」 

大谷がそう言うと、ひなたは眉をひそめる。

 

「うん。だからみんなあれこれ疑惑を膨らませてるの。

 『先生がやっぱり隠してる』とか『篠田先輩がこっそり鍵を取り戻しに来た』とか……いろんな推測が飛び交ってるんだ」

 

(完全に疑心暗鬼になってるな……)

 

事件の真相が見えない今、誰を疑ってもおかしくない状況だ。

せめて黒川先生や篠田先輩ときちんと話ができれば、

誤解や不信感を少しは拭えるかもしれない。

 

「放課後、先生や篠田先輩と話せそうなら、思い切って聞いてみようぜ。

 ちょっとリスキーだけど、このままじゃ部員みんなダメになっちまう」

 

大谷の提案に、ひなたも「うん、賛成!」と力強く頷く。

 

やはり核心に触れなければ、この閉塞感は打破できない。

俺たちはそう決意し、授業へと向かった。

 

 

◇◇◇

 

2. 放課後――キャプテンの揺れる心

 

その日の放課後、俺たちはいつも通りサーフィン部の部室へ行ってみた。

中にいたのは、マネージャーのひなたと、そして珍しく早めに来ていたキャプテン・篠田晃先輩。

 

「篠田先輩……!」

 

ひなたが声をかけると、篠田先輩は少しだけ顔を上げた。

やはり足は痛むのか、テーピングをしているようにも見える。

 

「……ああ、来たのか。今日はなんでこんなに早いんだ?」

 

「先輩こそ、久しぶりに早めに来ましたね!」

 

大谷が明るい調子で返すが、篠田先輩の表情は暗い。

 

「足の痛みがどうにも収まらなくて、医者に行ったら『しばらく休養しろ』って言われた。

 でも、インターハイ予選まで日がないし……どうしても体を動かしたいんだ」

 

「無理すると余計に……って先生も言ってるじゃないですか」

 

ひなたが心配そうに声をかける。

だが篠田先輩は「関係ない」と突き放すように言い放った。

 

「もう誰の言うことも聞く気になれない。

 ボードが見つからなきゃ、そもそも大会に出られないしな」

 

その自嘲気味な言葉を聞くと、胸が痛む。

篠田先輩はまるで「自分にはもう何も残されていない」という諦念すら抱いているようだ。

 

「先輩、先生とはもう話し合ったんですか?」

 

俺が思い切って尋ねると、先輩は苦い笑みを浮かべる。

 

「話し合いなら何度もしてる。『大会を諦めろ』の一点張りだよ、あの人は。

 ……まあ、あの人自身が昔サーフィンで大怪我してるって噂だし、

 余計に止めたいんだろうけどな」

 

(やはりそう思っているんだ……)

 

黒川先生の過去の怪我を知った篠田先輩は、ますます「先生が犯人かもしれない」という疑念を深めているらしい。

 

「本当に先生が盗んだと思ってるんですか……?」

 

ひなたの問いかけに、篠田先輩は答えを濁す。

 

「わからない。でも、他に鍵を自由に扱える人間がいるとは思えないし、

 実際、ボードが消えたのは『俺に大会を諦めさせるため』にしか見えない。

 俺自身も怪我しているし、あの人にとっては都合がいいだろ」

 

そこまで言ったところで、部室の扉が開いた。

入ってきたのは、黒川修二先生その人だった。

 

「篠田、お前まだいたのか。今日は足の検診に行くと言ってただろ?」

 

先生は少し驚いた様子で篠田先輩を見やる。

篠田先輩は目を伏せ、何も言わない。

 

(すごい気まずい空気……)

 

大谷とひなたがオロオロしていると、先生が静かに続ける。

 

「足の状態はどうだ?

 くれぐれも悪化させるなよ。今は安静にして――」

 

「先生には関係ないって言ってるでしょう!」

 

篠田先輩が激しい口調で遮る。

その声には苛立ちと絶望が混じっているように聞こえる。

 

「部員だろうが怪我だろうが、何もかも『俺を止めたい』あんたの思惑通りにはさせない」

 

「思惑……?」

 

先生が眉をひそめる。

篠田先輩は苦笑を浮かべ、

 

「もしやっぱり先生が俺のボードを隠してるんだとしたら……絶対に許さない。

 それで俺の怪我を防げたとしても、俺の“最後の挑戦”を奪うことになるからな」

 

そう言い捨て、先輩はテーピングを巻いた右足を引きずりながら部室を出て行く。

止めようとするひなたを振りほどき、痛そうな足取りで廊下へ消えていった。

 

(……もう限界ギリギリなんだな、先輩)

 

板挟みのひなたが涙ぐみそうな表情で小さくつぶやく。

先生は声もかけられず、ただ苦い顔をしたまま動かない。

 

 

◇◇◇

 

3. 二度目の闖入? 夜の影

 

篠田先輩が去ったあと、部室には重苦しい沈黙が流れた。

黒川先生も、「すまん……ちょっと外す」とだけ言って部室を出て行く。

大谷が「おいおい、ここまで対立して大丈夫かよ……」と心配そうに呟いた。

 

ひなたは俯いたまま、消え入りそうな声で言う。

 

「これ以上、先輩と先生の仲が悪くなったら、サーフィン部が崩壊しちゃうよ……

 どうにかならないのかな」

 

「まずは“犯人が誰か”をはっきりさせないと、誤解がどんどん膨らむばかりだろうね」

 

俺がそう返すと、大谷もうなずく。

 

「そうだ。……オレらで動こうぜ。もう一度、夜の校舎をしっかり見回るとか、

 噂になってる不審者の正体を突き止めるとか」

 

「先生に黙って行動するのはリスキーだけど……先生も信用を失いつつあるしな」

 

頭を抱えて考える。

「夜の校舎を巡回する」というのは、前回倉庫を調べたときに黒川先生の同行で行ったが、満足に捜索できず仕舞いだった。

その間に“もう一度誰かが校舎に入った”という話まで出てきている。

 

(だったら、俺たちだけで夜に忍び込むのは危険だが、

 桐生先輩あたりに許可を取ってもらうとか方法はあるかもしれない)

 

ひなたは決心したように顔を上げ、「桐生先輩に相談してみる」と言う。

大谷は「お、やる気満々だな」とからかい気味に笑うが、その目は真剣だ。

 

(今はもう、それくらいしか手がない。

 このまま何もしなければ、篠田先輩と先生の溝は埋まらないし、部員も絶望してしまう)

 

俺は心の中で一つ深く息を吐いた。

 

「よし、やるだけやってみよう。もし夜の校舎をもう一度調べられれば、

 “二度目の闖入”の正体や目的を探れるかもしれない」

 

ひなたも大谷も力強くうなずく。

どうにかして、“犯人”に近づかなくては……。

 

 

◇◇◇

 

4. キャプテンの深まる焦燥

 

その翌日、昼休み。

俺は中庭を通りかかった際、偶然ベンチに座る篠田先輩を見つけた。

足を休めているのか、右足を少し伸ばして悶々と空を見上げている。

 

「先輩……大丈夫ですか?」

 

声をかけると、先輩は顔をしかめて「お前か」と呟く。

 

「昨日はごめん。八つ当たりみたいなもんだ。

 でも、本当に俺は追い詰められてるんだよ」

 

「足、痛みますか?」

 

「うん。医者には『しばらく絶対安静』と言われたが、そんな余裕あるかよって感じ。

 ボードもない、時間もない、足もダメ……最悪だ」

 

篠田先輩の言葉には自嘲が混じる。

普段は頼れるキャプテンなのに、こんなに辛そうな姿を見ると、胸が締めつけられる。

 

「ひなたも心配してますよ。先生との関係も……」

 

「先生との関係なんて、もういい。俺たちは考え方が違うんだ。

 俺は最後の大会に懸けてる。あの人は『将来が大事だ』って頭ごなしに止める。

 それなら、ボードなんて消えたままでもいいんじゃないのか? 

 “怪我を防ぐ”って意味なら……」

 

先輩の表情からは絶望しか読み取れない。

ボード盗難が自分のためだとしたら――

その矛盾が彼をますます苦しめているのだろう。

 

「……先輩、諦めるんですか?」

 

恐る恐る尋ねると、先輩は目を伏せて小さく笑った。

 

「諦める……諦めない……どっちにしても、もう選択肢がなくなりつつある気がするよ。

 怪我が治る見込みが薄い状況で、ボードもない。

 これ以上、何をどうしろって言うんだ」

 

何も言えず、俺は沈黙した。

そっと背中に手を当ててみるが、先輩は顔を上げずに俯くだけ。

 

(このままじゃ、先輩はどんどん深みにはまる。

 やっぱり事件を解決しなきゃ、先輩も部活も立ち直れない)

 

そう思いつつ、昼休みが終わる予鈴が鳴り、俺は先輩を残して教室へ戻るしかなかった。

 

 

◇◇◇

 

5. 仕掛ける夜――再び

 

その日の放課後、俺・大谷・ひなたは桐生先輩のもとへ向かい、夜の校内捜索への協力を仰いだ。

「顧問の先生には言いづらいが、どうしてももう一度夜を見回りたい」と正直に打ち明ける。

 

桐生先輩は少し迷ったあと、「私も付き合うわ」と言ってくれた。

「危険なことをさせたくないし、警備員にも私が説明すれば問題ないはず」という頼もしい言葉。

 

そして、その晩――

桐生先輩が警備員と話をつけてくれた時間帯に、俺たちは校舎へ再突入。

大谷とひなた、そして桐生先輩を加えた4人で、改めて校舎裏や職員室周辺を中心にチェックすることになった。

 

「昨日、職員室に入ろうとして逃げた人影がいたなら、また来るかも」

 

大谷が興奮を抑えきれない様子で囁く。

ひなたは緊張で手が震えているのか、懐中電灯をぎこちなく握る。

桐生先輩は冷静な表情を保っているが、「慎重にね」と低い声で言う。

 

真夜中ではない。警備員さんが巡回中とはいえ、学校はやはり暗く静まり返っている。

足音がコツコツと響くたびに、心臓が高鳴る。

 

(頼む、何かしらの手がかりを……)

 

そう祈りつつ、俺たちは校舎裏の倉庫や渡り廊下、職員室周辺を探って回った。

だが、1時間ほど経ってもこれといった人物に遭遇しないし、物音もしない。

 

「やっぱり警備員が警戒してるとなると、犯人も来ないか……」

 

大谷が苦笑混じりに言う。

時計は夜7時半。そろそろ引き上げなければ、桐生先輩に迷惑がかかる。

 

そう思った矢先――

外のほうで微かな叫び声が聞こえた。

 

「……今の、何?」

 

ひなたが息を呑む。

桐生先輩が「外、行ってみましょう」と提案し、足早に校舎を出る。

 

闇夜の校庭は風が強く、砂塵が舞っていた。

グラウンドの端にある道を進むと、かすかに人影が見える。

 

「誰か、倒れてる……!」

 

近寄ると、そこに横たわっていたのは――

なんとShinoda SenpaiDas war es.

 

「先輩、どうしたんですか!?」

 

慌てて駆け寄るひなたが支え起こすと、先輩は汗まみれの顔で痛みに耐えているようだ。

 

「ぐっ……足が……」

 

右足に強烈な痛みを感じているのか、先輩はまともに立ち上がれない。

暗がりで練習しようとでもしたのか? こんな時間に、何をしていたのだろう。

 

「先生が……あっちにいるかと思って……」と先輩がうわ言のように呟く。

 

「先生? 黒川先生ですか?」

 

桐生先輩が確認すると、先輩は苦しげにうなずく。

 

「俺、もうこうなったら直接聞こうと思って……もし本当にあの人がボードを盗んだなら……取り返すんだって……。

 で、夜の校舎を探してたら、足が痛んで転んじまって……」

 

なんて無茶を……と、呆れるしかない。

これほど足を痛めているのに、夜に一人で徘徊すれば危険だ。

 

(先輩、相当追い詰められてるな)

 

俺と大谷で先輩を支え、立たせようとするが、悲鳴を上げて崩れ落ちる。

ひなたは慌てて「救護室……いや、もう救急車呼んだほうがいいかも!」とスマホを取り出す。

 

しかしそのとき、校舎の角から灯りが揺れながら近づいてくるのが見えた。

警備員さんかと思ったが、声を聞くと――Dr. Kurokawa.Das ist es.

 

「篠田! 大丈夫か!?」

 

先生が懐中電灯を手に駆け寄ってくる。

先輩は「くっ……やっぱり先生が……」と悔しそうな表情を浮かべ、先生をにらむ。

 

「だから俺を止めるために、こんな……」

 

先輩の視線は怨嗟に満ちている。

しかし、先生は必死の形相で先輩の足を確認し、「今はそんな話をしてる場合か!」と声を荒らげた。

 

「足を動かすな、悪化する! …おい、こっちに運ぶぞ!」

 

俺たちも慌てて手を貸し、先輩を支えながら校舎のほうへ移動する。

 

「先生、なんでこんな時間に……」

 

大谷が尋ねると、先生は息を整えながら答える。

 

「お前たちこそ、なんで……? いや、それはいい。篠田の手当てが先だ」

 

混乱のまま、俺たちは暗い夜道を急ぎ、学校の保健室へ向かった。

こうして“夜の校舎捜索”どころじゃなくなり、篠田先輩の応急処置が最優先となる。

 

(犯人に遭遇するどころか、こんな形で先生と鉢合わせになるとは……)

 

胸のざわめきが収まらない中、俺たちは必死に先輩を支えて保健室のドアを開けた。

 

果たして先輩の足はどうなってしまうのか。

そして、先生がこの夜、校舎をうろついていた理由は……?

疑問だけが募る。

 

◇◇◇

 

——第6話 終——

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